いただきものの図書券が6,000円分たまったので、近くの本屋を2、3軒まわってみた。

お目当ては、話題のトマ・ピケティ「21世紀の資本」である。

全額自分の懐から捻出するには痛いが、頂いた図書券なら負担感がなくて良い。

しかし、さすがにベストセラーだけあって、回った本屋で見つけることはできなかった。
が、解説本の数種類は置いてあった。

注文して読むほどのことではないので、「たった21枚の図で「21世紀の資本」はよめる」を謳い文句にしている「図解 ピケティ入門」という名の解説本を購入し、合わせてEテレの「パリ白熱教室」で済ますことにした。

図解の解説本にしたのは、両手を頭の上で組んで学生の講義する「パリ白熱教室」に出てくる図やデータを解説本で確認する意味合いが大きいからである。

多くの書評などにも取り上げられているように、ピケティは単純な公式 r>g を証明するために、20か国、2000年に及ぶ膨大なデータを集めて分析している。世界のGDP一人あたりの増加率の図などでは、紀元元年から予測を含め2100年までのデータが並べられているのは驚きである。

ピケティによれば、資本収益率rが経済成長率gより大きくなるのは、二度の世界大戦をはさむ例外的に時期を除いて歴史的事実、だから r>g になるのである。

その結果、富める者にますます富が集中し、2010年の米国ではトップ1%に富の30%以上、トップ10%で70%以上が集中している。ヨーロッパでは同じく20%以上、60%以上となっている。

こうして、資本主義社会のもとでは格差が拡大していくというわけである。

そこで、ピケティは世界が協調して累進課税を強めることに解決策を見出す。

所得再配分である。

2011年の日本のジニ係数は0.5536であるが、再配分後のジニ係数は0.3791に低下している(2014年3月15日付沖縄タイムス)ようなので、累進課税を強めて所得の再配分を行うことは、格差是正に一定の効果を与えることは可能であろう。

沖縄タイムス社は、子ども向けに「タイムス ワラビー」という新聞を発行している。
その3月15日号には、「ピケティの経済学人気、格差なくす解決策示す 富裕層から多くの税」の見出しで、大きく掲載している(記事は朝日新聞社提供)。

しかし、一定の緩和作用は認めるとしても、それで格差問題が解決するとは考えられない。

ある解説本にはマルサス、リカード、マルクスの3人を挙げて、彼らの経済学は終末論であると記載していた。
それは多分にピケティの考えであろう。

終末論である証拠として、マルクスについては「ブルジョアジーの没落とプロレタリアートの勝利は必然である。」との文章が添えてあった。資本論の24章第7節「資本主義的蓄積の歴史的傾向」のなかにでてくる「生産手段の集中も労働の社会化も、それがその資本主義的な外皮とは調和できなくなる一点に到達する。そこで外皮は爆破される。資本主義的私有の最後をつげる弔いの鐘がなる。」を意識しているのだろうか。

マルクスは資本論第24章第4節「相対的過剰人口の種々の存在形態 資本主義的蓄積の一般的法則」で「一方の曲での富の蓄積は、同時に反対の極での、すなわち自分の生産物を資本として生産する階級の側での、貧困、労働区、奴隷状態、無知、粗暴、道徳的堕落の蓄積なのである。」と指摘している。

ピケティは膨大なデータをもって、マルクスの指摘を意図せずとも実証したと言えなくもない。

もっとも、ピケティが主張するように国際協調による累進課税の強化が実現する見通しはない。
その最も大きな障害が、案外「企業が世界一活動しやす国」をめざし、法人税減税と富裕層の保護にまい進する日本政府かもしれない。

また、彼のいう資本がどのように生み出されるかの解明はないから、資本主義の根本的な部分の説明もない。
未来への展望を十分に語っているのでもないと思うが、「格差の解決策を提示」などともてはやされているのは課題な評価だと思える。

だからと言って「三流経済学者」などとの批判は当たらないと思うし、膨大なデータを分析し、世間に提示したことの意味は大きいと考える。

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