会社の経営が左前になった、貸したお金があるが返してもらえそうにない!
経営者に頼まれて会社の株を買ったが倒産してしまった。お金は回収できるか?
そんな相談がたまにあります。
すべてのケースでダメとは言いませんが、ほとんどの場合は期待できません。

従業員に借金を申し込む会社は危ない会社

多くの会社は借金しています。無借金経営をしている会社の方が少ないでしょう。
通常の借金先は銀行です。親会社があれば親会社ということもあるでしょう。
会社の経営が健全であれば、借金はこうした所から借金すれば良いのです。

それを従業員に借金を申し込むのはどういうことでしょう。
銀行の審査を通らず、銀行がお金を貸してくれないということが想定されます。
銀行も、この会社にお金を貸して回収ができるかどうか分からないと考えているかも知れません。
従業員に借金を申し込む会社は、危ない会社と考えて間違いありません。
経営者との軋轢が生じるかも知れませんが、貸さない方が無難です。
貸す場合は、「貸したお金は返らないお金」との覚悟が必要でしょう。

もちろん、貸したお金は返してもらうのが筋です。
返してくれと請求することはできますし、裁判に訴えることもできますから、その事も考えて、必ず借用書はとっておくことが必要です。連帯保証人として社長個人になってもらいましょう。
会社が法人であれば、会社が倒産してしまえばよほどのことがない限り、会社の借金を社長である個人が責任を負うことはありません。社長個人が連帯保証人になっていれば、会社はなくなっても社長に返済を請求することができるという訳です。
ただし、経営者は会社が倒産するまでには自分の資産を担保にして金を借りている場合が多いので、裁判で判決をもらっても、その時点で社長個人には資産が残っておらず、差し押さえる物がないということもあります。そうなると、判決書はただの紙切れとさして違いはありません。

お前を取締役にするから、経営陣の一員としてお金を出資してくれ

こんな自尊心をくすぐる甘い囁きも要注意です。
会社にとって必要なのは、貴方自身ではなくて、貴方が出してくれるお金なのですから。
危ない会社の取締役になったって何のメリットもありません。
お金を出すまではちやほやするかもしれませんが、取締役にふさわしい待遇も期待できません。

株を買って株主にという話に乗ってはいけません

「従業員が会社の株を買って株主になれば、仕事に対するモチベーションも上がるし、ひいては業績もあがるから」と従業員に会社の株を買わせようとする場合もあります。
これは、借金よりも注意しなければなりません。
株式会社の場合(合資会社の無限責任社員を除き、その他の法人の場合も同様ですが)、株主は出資した範囲で責任を負うことになります。したがって、出資した会社が倒産した場合には株主が資金を回収することは不可能です。

この会社は倒れそうだから、今のうちに退職して株は会社に買い取ってもらおう
との考えはどうでしょう。
そもそも会社にお金がないから従業員に株を買わせたのですから、会社が買い取る可能性は高くはありません。
それなら誰かに譲って回収しようか、と考えてもそれも望み薄です。
市場に株式を公開しているのならまだしも、そうでなけれが殆どの会社の定款には「株式の譲渡は取締役会の承認を得る」との条件が付けられていますから、売買もままならないのです。
それ以前の問題として、倒れかかった会社の株を買う人がいるとも思えません。

労働組合をつくって・入って対応するのがベスト

会社が、いろんな手口を使って従業員にお金を出させようとする場合、一人ひとりで対応するより、労働組合があればその労働組合で、なければ労働組合をつくり、あるいは一人でも加入できる労働組合に相談し、労働組合として対応することがベストです。
「当座の資金繰りが厳しいから従業員に出してもらおう」という考えでは、その場しのぎにしかならず、早晩行き詰まりが来るのは目に見えています。
労働組合として、会社の申し出に対してYES、NOの対応だけでなく、団体交渉で何故従業員にお金を出させようとしているのか、会社の経営状況も含めて明らかにさせ、経営改善策を議論することによって、抜本的な経営方針を確立していくことにもつながっていくでしょう。

 株主になっても良いケース

業績が安定し利益を出している会社で、「従業員持株会」などを通して、株を持っているという場合もあります。これは、会社の利益を株主配当という形で従業員に還元するという意味であれば、必ずしも前記のような警戒が必要ということでもありません。多分、退職した時の株の取扱いもルールがあるでしょう。
ただし、どんな場合でも株主としての責任については理解しておくことが必要です。

労働組合の立場から言えば、株主配当という形ではなく賃上げという形での利益配分を求めるほうが先決だとは思いますが、それは今日のテーマではありませんので触れません。