労働基準法第20条は、使用者が労働者を解雇する場合には、「30日以上前に予告する」か、「平均賃金を支払った分の日数を短縮することができる」と定めています。

しかし、現実には一旦発した解雇予告を取消そうとしたり、当初予告した解雇の日付を変更しようとする使用者(経営者)も出てきます。

解雇を通告された労働者が、解雇予告手当や解雇理由証明書の発行を要求すると、「解雇は取り消しだ。しかし今の部所に置いておくことはできないので他の部所に配転する。」などと言い出すこともあります。

まあ、こんな場合は他の部署に配転すれば、労働者が嫌になって自分から辞めていくだろうとの魂胆は見え見えですけれど。

そこで、労働者が配転を拒否して出勤せずにいると、「解雇は取り消したのに、出勤しないのは無断欠勤だ。」として、再解雇したり自主退職扱いにしたりします。

そこで、問題は次のようになります。

一旦発した解雇予告を、使用者が一方的に取り消すことが可能か?

結論から先に言えば、労働者の同意なく取り消すことはできません。

労働法コンメンタール「労働基準法上」(厚生労働省労働基準局編)によれば、労働者の自由な判断による同意があれば可能であるが、同意がない場合にはできないとされています。


使用者の行った解雇予告の意思表示は、一般的には取り消すことを得ないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができるものと解すべきである。解雇予告の意思表示の取消に対して、労働者の同意がない場合は、自己退職の問題は生じない。」(昭和25年9月3日 基収第3824号、昭和33年2月13日 基発第90号)


解雇の予告後に解雇の日付を変更するという場合もあります。

例1)例えば、「お前は明日から来なくて良い。解雇だ。」と即時解雇を告げながら、労働者から「それなら解雇予告手当を払え。」と請求された途端、「即時解雇は取消しだ。30日以上前に予告すれば良いのだから、向こう30日間は働け。」と、解雇期日の変更を言い出したりする場合があります。

例2)それとは逆に、30日前に予告しながら、30日が経過しない前に事情が変わったとして、解雇に日付を前倒ししてくる場合もあります。

解雇の日付を使用者が勝手に変更できるか?

上記の例1のケースで言えば、これも原則として認められないが、労働者が同意し、労基法第20条に合致するものであれば、認められるということになっています。

その理由について労働法コンメンタールは、次のように解説しています。


労働者にとっては予期した予告手当を受けられないこととなり、さらに新しい就職口の定まった労働者にとっては解雇月日の延期された日数だけ新使用者のもとにおいて労働することができない場合が生じるので、このような解雇月日の変更は許されないと解すべきものであろう。もちろん労働者の同意が得られた場合は、その変更の結果が本条の要件に合致する限り差し支えないであろう。


新しい就職口が見つかったかどうかという個々の事情はさておいて、労働者が同意しない変更はできないという点を押さえておくことが大事です。

例2に場合にはどうであろうか。その点に関しては次のように解説されています。

 


いったん特定してなされた解雇月日を繰り上げることは、この限りにおいて解雇よお区の取消変更となるので、例え短縮した日数に相当する予告手当の支払がなされても、解雇月日を使用者が一日的に変更することはできないと解すべきであろう。しかしながら、予告手当によって換算されれば現実に就労しなくてもその間の賃金が労働者に支払われるのでこのような条件のもとにおける予告月日の変更については現実には労働者が同意する場合が多く、また明示的に同意しなかった場合においても短縮日数に相当する予告手当を異議なく受領した場合は解雇月日の変更について同意がなされたものと解されよう。


労働法コンメンタールを紹介してきましたが、要はどのような場合であれ、労働者の同意を得ない取消しや解雇月日の変更はできないということになります。

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