7月27日に出された中央最低賃金審議会の目安答申を受けて、各都道府県の最低賃金審議会で、2017年度の最賃改定審議が行われている。

すでに多くの都道府県で審議会の答申がなされている。

8月7日現在で全労連がまとめた内容を見ると、21県で答申がでており、うち19県は目安どおりの答申、沖縄と新潟が目安プラス1円の答申となっている。

これって、おかしくないか?

最低賃金審議会が本来「目安」とすべきは、中賃の目安ではない。

最低賃金法第9条に定められる次の3点である。

(地域別最低賃金の原則)

第9条 賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金(一定の地域ごとの最低賃金を言う。以下同じ。)は、あまねく全国各地域について決定されなければならない。

2 地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の支払い能力を考慮して定めなければならない。

3 前項の労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活が営むことができるよう、正確保護に係る施策との整合性に配慮するものとする。

この最低賃金法の定めからすると、2項の生計費、賃金、支払い能力の3点について、調査・審議しなければならないのである。

では、地方最低賃金審議会で、最低賃金法に基く調査・審議がなされたのだろうか?

沖縄県労連は、8月9日に沖縄労働局に対してこの点を質したが、労働局から明確な回答はなかった。

最賃審議会の審議では、沖縄の労働者の生計費は幾らと認定したから、23円引上げとなったのか?

地域における賃金は幾らだから、23円引上げとなったのか?

通常の支払い能力はいくらと認定し、23円引上げとなったのか?

沖縄地方最低賃金審議会が答申を行った8月4日、沖縄労働局が発表したPress Releaseには、「沖縄地方最低賃金審議会は、最低賃金専門部会を設置し、県内の各種経済指標、賃金調査資料等による検討をはじめ、事業場視察、参考人意見聴取などを実施し、平成29年7月27日中央最低賃金審議会から示された目安答申を参考にしつつ、諸般の事情を総合的に勘案して慎重に審議を行い、答申として取りまとめた。」とある。

ここで言う「各種経済指標」のなかに、上記3点に関する指標は含まれているとの回答はないのである。

沖縄はDランクとされているが、同じDランクには青森県、岩手県、秋田県、山形県、福島県、鳥取県、島根県、愛媛県、高知県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の16があり、目安では22円が示されている。

中央最低賃金審議会は、16県における生計費、賃金、支払い能力を調査したのだろうか?

そのうえで、Dランクの16県は等しく22円の引上げが妥当だとの結論に至ったのだろうか?

事はDランクだけでなく、AからDランク、すわなち47都道府県すべてにおいて調査を行ったうえで、目安を出したのだろうか?

7月27日の「平成29年度地域別最低賃金額改定の目安に関する公益委員見解」を見ても、「取捨選択を行った資料」のなかに、名目GDP成長率、賃金改定状況調査、非正規雇用労働者及び中小企業の正規雇用労働者の賃金上昇率等々の言葉は出てくるが、最低賃金の眼目とも言える生計費の文字は見当たらない。

今日、格差と貧困が大きな社会問題となっている。

沖縄県の調査では子どもの貧困率は29.9%(全国は2015年で13.9%)、就学援助を受けている子どもは5人に1人(2016年)となっている。しかも、受けたくても自治体によって規制があり受けられない子どももいる。

子育て世代は働く世代である。

子育て世代には、もちろん自営業者等もいるが、その圧倒的多数は労働者である。

生活保護以下の世帯収入で子育てしなければならない労働者が何故にこれほど多いのか?

働いていながら、教育費も満足に払うことができない労働者が何故これほど多いのか?

本当に現在の最低賃金制度と最低賃金額が「健康で文化的な最低限の生活を営むことができる」水準なのか?

「労働者が人たるに値する生活を営むための必要をみたすべき」(労働基準法第1条)労働条件なのか?

疑問は尽きない。

2016年4月14日にユニセフ(国連児童基金)が発表した報告書によれば、EU(欧州連合)とOECD(経済協力開発機構)に加盟する41か国のうち、子どもの格差が少ない準に並べると、日本は下から数えて8番目となっている。

地域間格差を広げ、固定化するランク別最低賃金の在り方を抜本的に変え、全国どこで働いても、8時間働けばまともに生活でき、子育てできる制度と金額に変えていくことが必要ではないだろうか。