使用者は、1日8時間を超えて働いた時間、週40時間(労働時間の特例業種は44時間)を超えて働い時間に対して、2割5分の割増賃金を支払う義務があります。週に1日と定められている法定休日は3割5分増しの賃金を払わなければなりません。

ところが、これを守っていない使用者が多いのです。
これまで残業代不払いに対する請求を手がけてきて、その代表的な手口を紹介してみます。

そもそもタイムカードが存在しない

労働者が、毎日何時から何時まで働いているのか、労働時間の把握は事業主の義務ですが、未だにタイムカードがない企業があります。

労働時間管理を最初から放棄している会社ですから、残業代を払うという意思もない会社です。

タイムカードを定時に押させ、その後残業させる

タイムカードはあるのですが、終業時間にタイムカードを押させ、その後残業尾させる手口です。
これで残業がないことにしてしまいます。

その変形バージョンとして、始業時にはタイムカードは押させるが、終業時の打刻を禁止し、管理職が手書きで終業時刻を書き込み、すべて定時で仕事が終わったことにしてしまうこともあります。

タイムカードのある事務所を一定時間で閉めてしまう

タイムカードを事務所内に設置し、一定時刻に閉めてしまう手口です。
例えば、午後6時が終業時間の企業で、午後7時に事務所を閉めてしまうと、午後7時以降に営業や配達から戻った労働者(午後7時までには戻れないような業務量)は事務所に入れないため、終業時にタイムカードを押すことができません。

翌日管理職が、「昨日は何時に帰った?」などと聞き取る場合もあるが、それは記録には反映されず、押しなべて午後7時が退勤時間となっていた。

紙ベースのタイムカードでは、労働者自身で書き込むことは許されず、ICチップ使用の事業所では労働者自身で修正する手段もない。

労働時間を丸めてしまい15分や30分を切り捨てる

一日の労働時間が8時間とか、8時間30分、あるいは9時間というように、雑多な端数がなくきちんと揃っているようであれば、間違いなく時間の切り捨てが行われています。

冒頭にも書いたように、8時間を超えた時間、40時間を超えた時間が残業時間です。
例え1分でも5分でも8時間を超えたり、40時間を超えたりしている時間は残業時間として集計しなけらばなりません。

その超えた時間を賃金計算期間の単位で集計するのが、正しい集計の仕方であり、丸めてしまって端数を切り捨てるのは違法です。

早出残業時間を切り捨てる

配達業務に従事する労働者は、定時に出勤するとお客さんの希望する時間に配達できない、業務量が多すぎて定時に出社していては仕事が終わらないなどの理由で、早出残業をしている人が結構います。

この早出残業時間を切り捨ててしまう手口もあります。

ある会社では「仕事時間というのは配達している時間であって、荷物の積み込みなどを行う時間は準備時間であって残業とはみなさない」と言われたこともあります。

始業時刻前であろうが終業時刻後であろうが、労働時間が8時間を超えたら残業です。

集計方法が滅茶苦茶で理解できないが、なぜか労働時間が減っている

一応、タイムカードに打刻されている出勤時間と退勤時間をもとに集計されているように見えるのだが、その集計の仕方がさっぱり理解できないようになっており、なぜか労働時間が減っている。

残業計算の基礎となる賃金から手当類を除外する

残業代を計算するには、1時間あたりの賃金を決める必要があります。

そのために、残業代を計算するにあたっての基礎となる賃金があるのですが、基本給だけで計算し、手当を除外してしまう手口です。

基礎賃金に入らないのは、住宅手当、出勤するための交通手当、扶養手当などの俗人的手当であって、その他の手当は基礎賃金に入ります。

基礎となる賃金が基本給だけだったり、一部の手当しか組み込まれていなかったりすると、1時間当たりの賃金が低くなり、残業代も当然低い額となります。

本給部分だけ支払い、割増分を払わない

本給部分だけは支払うが、割増分を払わないという手口です。
例えば、時給1000円の労働者が残業するとして、残業代として1000円は支払うが、割増分の250円は支払わないというものです。

固定残業制と称して、何時間働いても金額は一定

一定額を固定残業代として支払い、「固定残業制だから」と何時間働いても残業代が固定しているという手口です。

例えば1時間あたりの賃金が1000円の労働者と仮定して、月20時間の固定残業制の場合、2万5000円が20時間分の残業代になります。

ところが20時間を超えて25時間働かされようが、30時間働かされようが、支払われるのは相変わらず2万5000円という仕組みです。

固定残業制度というのは、上記の例に照らせば20時間より少ない残業時間であっても2万5000円は支払うもので、20時間を超えた時は、20時間を超える時間分の残業代を追加して支払わなければなりません。

残業代は基本給あるいは○○手当に含まれているとする手口

こうした手口が一律に違法だということではありませんが、大方は残業代を支払わないか、あるいは誤魔化すための言い逃れが多いことも事実です。

ある会社では「残業代と深夜割増を含む管理職手当を、基本給に込みで支給する。」として、基本給だけを支払っていた事例もあります。

基本給や○○手当に込みで支払う場合には、就業規則などで規定し、基本給部分が幾ら、○○手当が幾ら、残業代が幾らになるか、労働者自身が容易に判別でき計算できるように明確にする必要があります。

残業代は基本給(あるいは○○手当)に含まれるとしながら、残業がなかった月も、少なかった月も、多かった月も、基本給(あるいは○○手当)の額が一定では、相当怪しいものです。

残業代は出ないものと労働者に思い込ませる

「自分は年棒制だから残業しても残業は出ない」、あるいは「営業の仕事だから出ない」と口にする労働者がいます。

なんで年棒制なら残業代がもらえないの?
なんで営業なら残業代がでないと思うの?

と尋ねると、だって年棒制(営業の仕事)とはそういうものなんじゃないの?

と返ってきます。

これは、残業代がでないものと思い込まされているようです。

でも、年棒制であろうと営業職であろうと残業代は払わないといけないのです。

会社への出社を義務付けらず、どこで何時間働こうが自分の勝って、時間の拘束は受けない、結果を残せばそれで結構、という働き方をしていないかぎり、営業職も残業代は払ってもらうことになります。
ましてや、外回りの営業が終わると会社に戻って報告書を書くなど、時間管理が容易であれば尚更です。

管理職だからと残業代を払わない

管理職という肩書を与えて、「管理職だから」との口実で、残業代を払わないという手口です。

部下もいない主任という肩書を与え、残業代を払わないというひどい事例もありました。

意図的なのか、無知からなのか、管理職には残業代を払わない経営者もいます。

しかし、労働時間法制から除外されているのは、管理監督者であって管理職ではありません。

管理職になったからといって、残業代を諦めることはありません。

ましてや、管理職の実態もない「管理職」ポストで騙されてはいけません。

管理監督者についてはこの記事を参照してください。

事実を見つめることが大事

残業代を請求したいと相談にくる労働者でも、自分の給料が正しく払われているかどうかをチェックしている人はほとんどいません。給料明細さえ捨ててしまって手元にないという人もいます。

働いた分の給料がちゃんと払われているかどうかを日頃から確認しましょう。