9月3日付の琉球新報は、1面トップで「三六協定 監督を強化 沖縄労働局 『労働者代表』適正か調査」との見出しで、下記のように報道している。

それはそれで前進であり、沖縄労働局には頑張っていただきたい。

が、過半数代表者をめぐる問題は、選出方法の監督強化だけではおさまらない問題を孕んでいる。

まずは、記事のリード部分を引用して紹介する。

<以下、引用>

 沖縄労働局は、時間外労働(残業)をさせるのに必要な労使間の労使協定、いわゆる「三六(さぶろく)協定」について県内企業の締結実態の監督指導を強化する。協定届け出時に使用者と協定締結の相手方として法で規定されている「労働者の代表」が適正かどうか詳しく調べる。「代表」が過半数を代表しているかや民主的手法で選ばれたかを精査する。

<引用終わり>

背景には、電通での過労自殺と違法残業に関して、過半数を組織していない労働組合と協定を結んでいた事が発覚し、県内でもチェックを強化するとのことである。

チェックの強化については賛成で、大いに強めていただきたい。

しかし、過半数代表者が適正に選出されたとしても、その過半数代表者が労働者の知らないうちに「月300時間の残業協定を結んでしまった場合有効なんですか?」と問わざるを得ない。

過半数代表者は、法の趣旨に則った適正な選出方法で選出されること、過半数の労働者を代表して会社と交渉し、場合によっては協定しないという役割をはたすことが求められている。

沖縄県労連は、今年(2017年)3月7日に沖縄労働局に対して、「貴局管下の労働基準監督署におかれましては、過半数代表者の選出方法については、厳正にチェックし、法の趣旨から逸脱している場合は、適正なものとなるよう指導していただくこと。」と、下記の事例を挙げて要請した。

①A社では、会社が指名した者にサインをさせ、「抽選で選んだことにしておくから」と口止めをして、労基署に届出ている。その「過半数代表者は、サインすべき就業規則の改定内容を従業員に知らせることなく、個人の意見でサインしている。

②B社では、過半数代表者を選ぶ具体的な事由もないなかで、「就業規則の改定塔に必要なだから」として、ある日突然、部長や課長がX氏を過半数代表とすることに賛成か反対かのサインを求めて選ぶ方法を採用している。この会社でも「過半数代表者」は、就業規則その他の規程類の改定にあたって従業員の意見を聞くことなく、個人の判断でサインしている。

③C社では三六協定の締結にあたり過半数代表者を選ぶことになったが、協定な内容も開示されず、従って立候補者Y氏が協定内容にどのような見解を持っているか明らかにされないまま、信任投票を行っているが、誰が信任し、誰が不信任に票を投じたか会社が把握できる方法を採用している。この会社では協定等の締結にあたってはその内容を従業員に知らせる必要はなく、過半数代表者が個人の判断でサインすれば良いとの立場である。

これらの事例を示して、沖縄労働局の見解を質した。

沖縄労働局の見解は、「A社の選出方法は違法であるが、その他については違法とは言えない」というものだった。

このように、過半数代表者については、その選び方と役割という点で問題がある。

労働基準法第36条をはじめ、多くの条文で「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表するものとの書面による協定」との文言がみ受けられる。

では、その過半数代表について、法律はどのように定めているかと言えば、労働基準法施行規則第6条の2に下記のように述べているだけである。

労働基準法施行規則第6条の2 法第18条、・・・(略)、法第36条第1項、第3項及び第4項、・・・に規定する労働者の過半数を代表する者は、次の各号のいずれにも該当する者とする。

一 法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。

二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法により選出された者であること。

②と③は略。

また、昭和63年1月1日基発第1号には「過半数代表者の選出方法として、(a)その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が当該事業場の労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選手するようなものであってはならず、かつ、(b)当該事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続が採られていること、すなわち、労働者の投票、挙手等の方法により選出されること」とある。

平成11年3月31日基発第169号は、先の通達にある「等」とは何かという点について「労働者の話し合い、持ち回り決議等労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が該当する」としている。

このような法令の趣旨を踏まえ、沖縄県労連は次のように考えるのが妥当であると主張した。

1 そもそも協定当事者として想定されているのは「過半数労働組合」であり、過半数代表者は過半数労働組合がない場合の代替措置である。労働組合としたのは協定内容等に対する組合員集団の意見を反映させるためである。そうであれば、過半数代表者は従業員に意見を求めずに個人の判断でサインし、しかも改定内容も知らさないということは法に反する。

2 「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、・・・」の意味するところは、単に「就業規則に意見を述べる」や「三六協定を締結するため」という抽象的なものではなく、その内容を明らかにして行うものでなければならない。

3 労働者には誰でも過半数代表者に立候補する権利を持っているのであり、それを奪うようなやり方は許されない。そもそも過半数代表者を選ぶことは、本来労働者集団がやるべきことであって、会社が主体ではない。
上記のA社は論外として、B社のX氏やC社のy氏の場合は「適否について判断する機会が与えられている」とは言えない。また、部長が回覧板をもってサインを求め、選挙が会社に管理されるやり方では、会社の意向を忖度する労働者が存在することは想定されることであるから、選挙や持ち回りというやり方であったとしても、民主的とは必ずしも言い難い。

4 過半数代表者とは、協定内容を明らかにした上で、労働者の過半数が賛成か反対か、あるいは修正が必要なのかの意見を聞き、それにしたがって行動すべきである。したがって、過半数代表者自身は協定内容に反対であっても、過半数の労働者が賛成であれば(その逆の場合でも)賛成の立場で行動することが求められる。

こうして考えていくと、過半数代表者に関する法制度に不備があるのは明らかであり、適正な選出の監督強化だけでは限界がある。

例示したB社、C社が違法でないとすれば、そこで働く労働者は自分の労働条件を、自分の知らないままに変更され、それに対して意見をいうこともできないのである。