交渉4回積み重ねての解決

会社を辞めたあとで、残業代を請求したいと相談にきた労働者と一緒に、会社と交渉してきた事案が解決しました。

当初、会社は「タイムカードどおりに計算して支給しているので、未払いの残業代はない」と主張していましたが、話を詰めていくなかで、30万円となり、70万円となり、150万円となり、最終的には200万円を支払うことで合意に至りました。

当初の会社の言い分は次のようなものでした。
月44時間の固定残業制度を採用しているので、その分は毎月定額で支払っている。
残業時間が44時間を超えた部分については、追加して支給している。

確かに、賃金明細の残業欄には毎月同額の金額が記載され、その下の欄にも金額が印字されている月があります。

それならばと、「タイムカードを提供してもらって、労働組合で計算し、それから話し合いましょう」と提案したところ、会社は1年間のタイムカードを提供してきました。(この会社は、労働者が退職する1年前からタイムカードを導入したとのことで、それ以前の記録はありません。)

そこで威力を発揮したのが、だれでも簡単に残業代が計算できるエクセルシート「給料ふえる君」です。

「173.8時間を超えたら残業」の思い込み

1年間のタイムカードの時間を打ち込み、週6日働いた週のうち1日は残業日とし、・・・で計算していくと、固定残業代を勘案しても、やっぱり未払い残業代は存在しています。

2回目の交渉で、計算結果を示して「残業時間について、どのような考え方に基づいているんですか?」と尋ねると、

会社の答えは、

「月173.8時間を超えたら残業」ということでした。

参考までに挙げておくと、労働基準監督署では、下記のように記載されたプリントを渡しているようです。


1年間における1か月平均所定労働時間数の計算方法

その1 完全週休2日制を採用し、年間休日を121日(週休日105日、国民の祝日等16日)
    としている企業の場合

   (365日ー121日)×8時間=1,952時間
   1,952時間÷12月=162.7時間

その2 365日÷7日(52.14週)X40時間:=2,085.6時間
    2,085.6時間÷12月=173.8時間


 会社の担当者の頭には、その2として記載されている「月173.8時間」が強くインプットされていたようで、「173.8時間を超えると残業」と思い込んでいる様子です。

就業規則を見せてもらうと、休日は日曜日、第4土曜日、正月3日、旧盆1日となっています。

 こうなると、後は実務的な確認が重要です。

・エクセルに打ち込んだ出退勤時間が、タイムカードと異なっていることはないですよね。
・173.8時間は、週休2日以外にまったく休日がない場合の数字であって、会社の休日はそれ以外にもありますよね。
・計算上は休日が増えて所定労働時間が減りますから、一時間当たりの賃金が増えますよね。
  (本来の時給額は950円となるべきところ、会社は830円で計算していたことが判明)
・第4土曜日以外の土曜日を出勤日としているけれど、週6日働いた場合の土曜日は、まるまる残業時間になりますよね。

などなど、・・・こんな感じの交渉です。

タイムカードによる金額が確定したところで、タイムカードがなかった時期の残業代については「タイムカードのある1年間と同じように働いてきたとみなす」ことにして、198万余となったところで、端数調整で200万円に切り上げての解決です。

「週40時間 一日8時間を超えて働くのが残業」の徹底を

このような交渉を通じて感じることは、「一年間の所定労働時間が173.8時間」には、前提とする条件があり、その前提条件が異なるにもかかわらず、「173.8を超えると残業時間」と思い込んでしまう企業があるということです。

労働基準法には、週40時間を超えたら残業、一日8時間を超えたら残業というのはあっても、月183.6時間を超えたら残業というのはありません。

前にも書いた事がありますが、次のような場合には、残業時間が消えてしまいます。

ある月に、1日2時間の残業を4日やったとすると、8時間の残業となります。
この同じ月に、国民の祝日が1日あって出勤しなかったとします。
月173.6時間を超えると残業と思い込んでいると(あるいは意図的に)、残業8時間は計算上祝日に働かなかった8時間の穴埋めにされてしまうので、173.6時間は変わりません。
国民の祝日が2日あったとすれば、その月の労働時間は165.6時間になってしまうのです。

残業時間の計算にあたっては、

労働基準法第20条の「①週に40時間を超えて働かせてはならない。②週の各日において8時間を超えて働かせてはならない」をきちんと押さえ、

第37条の「第20条の時間を超えて働かせた時間には割増賃金を払う」ようにしなければいけません。

この記事をよんで、自分の残業代が正しいかどうか、試しに計算してみようと思われた方、そもそも残業代が払われていないという方は、次のリンクからエクセルシートがダウンロードできます。

 だれでも簡単に残業代が計算できるエクセルシート「給料ふえる君」

計算してみて、何かおかしいと感じたり、「残業代が支給されていないが本来ならこれだけあるはずだ」と思う方は、貴方を応援する労働組合に連絡しましょう。

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