誰でも好き好んで病気になる人はいませんが、いつなんどき病気にかかったり、怪我をしてしまうかわからないのが、私たち人間です。
その病気が私傷病である場合、健康保険を使用することになります。
病院で治療を受ける際には、自己負担3割を支払えば、残り7割は保健から給付されます。
仕事を休まざるを得ない時には、傷病手当金を請求することになります。
(注)この記事は協会けんぽに関するもので、国民健康保険では傷病手当金は支給されません。

ところが、休業期間に関して、企業の担当者のなかには「本来就業すべきであった日数」と勘違いしている場合があります。
これだと、週休2日の職場だと月により8日から10日程度、給付日数が少なくなってしまいます。

健康保険法で傷病手当金の給付に関する条文は第99条です。
その99条には「被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金として、一日につき、標準報酬月額の3分の2に相当する金額を支給する。」と書かれています。
この条文の「労務に服することができない期間」とは、暦日で数えた期間・日数であって、就労日として定めてある日に仕事ができずに休んだ日数(つまり、暦日での日数から休日を差し引いた日数)ではないのです。だからこそ、「一日につき、標準報酬月額の3分の2に相当する金額を支給する。」のであって、「労務に服することができずに欠勤した一日につき、・・・」とはなっていないのです。

全国健康保険協会がネットに掲載している「傷病手当金支給申請書記入例」でも、平成20年10月6日から平成20年10月24日までの期間における、療養のため休んだ期間は19日となっています。そして、「療養のため労務に服することができなかった期間と日数(公休日を含む)を記入してください」と説明されています。
記入例はこちら http://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/migration/g2/cat230/20110425-190415.pdf
では、どうして、「公休日を含まない日数」との誤解が生まれるのでしょうか。

私の手元に社会保険研究所による「社会保険の事務手続き」という手引書があります。
事務手続きには、傷病手当金に関して「被保険者本人が療養のため仕事を4日以上休んで給料を受けられないときは、4日めから欠勤1日につき標準報酬月額の3分の2が受けられる。」と説明されています。
いつの間にか「一日につき」が、「欠勤一日につき」に変えられているのです。
この社会保険研究所の説明を真に受ければ、公休日を含まない日数が傷病手当金の給付対象となる日数になってしまいます。

労働時間は週40時間、1日8時間となっていますが、それをどのように実現するかは企業によって異なります。
週休2日制の企業もあれば、4週6休の企業、あるいは週のうつ5日は7時間、1日は5時間としている企業もあるかも知れません。
4週間休んだとすると、休業手当金が受け取れる日数は、週休2日制の企業では20日(3日は待機期間として給付対象となりませんから実際は17日。以下同じ)、4週6休制の企業では22日、週労働6日の企業では24日となって、不公正は事態が生じることになります。

この手引は沖縄では「一般財団法人 沖縄県社会保険協会」を通じて、けんぽ加入事業所に配布されています。
多分、他の都道府県でもそれぞれの社会保険協会を通じて配布されていると思います。

2008年に、ある職場で問題が起きたため、沖縄県社会保険協会に電話して、誤解を招く表現を改め、法律を正確に反映する記述とするよう申し入れましたが、平成24年版でも訂正されずにそのまま「欠勤1日につき」が残っています。
労働組合があれば、企業側の理解の誤りを指摘し、休業日数を正しく記載させることもできるでしょうが、労働組合がない企業では、仮に労働者(被保険者)が疑問を持ったとしても、企業の担当者から「ほら、社会保険協会から配られた手引書にも、『欠勤1日につき』とあるでしょう。土・日と祝日はもともと休みの日なんだから、欠勤にはならないでしょう」なんて言われると、納得してしまいかねません。

欠勤の2文字があるかどうかで、労働者の休業中の生活に少なからず影響を与えること可能性が高いのですから、社会保険研究所と社会保険協会は、直ちに訂正し、健保加入事業所にその旨徹底すべきです。

注)この記事は、2008年7月の記事に加筆したものです。その当時は、私も初めて遭遇した事例でしたので、社会保険研究所、社会保険協会といった固有名詞の使用は避けてきましたが、訂正を申し入れて5年経過しても訂正されないため、今回はあえて固有名詞を出させてもらうことにしました。