政府の規制改革会議は、解雇の金銭解決制度を検討課題とする規制改革緩和策を、安倍晋三首相に答申した。
安倍政権は、答申内容を新たな「成長戦略」に反映するという。
現在国会で審議されている「高度プロフェッショナル制度」(第一次安倍政権時は「ホワイトカラーエグゼンプション」)とともに、解雇の金銭解決制度の導入は、第一次安倍政権にも狙われた経緯があり、安倍首相はこれらの制度の導入に執念を燃やしているといえる。
解雇の金銭解決制度の導入を主張してきたのは誰か?
制度の導入によって得するのは誰か?
解雇の金銭解決制度で得するのは誰か
2013年4月16日、日本経団連は「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」と題する提言を発表している。
「企業の成長を確保するため、労働規制の見直しを一気に進める必要がある」として、①労働時間法制、②雇用保障責任、③労働条件の変更を挙げている。
①の労働時間法制に該当するのが、ア)高度プロフェッショル制度と企画型裁量労働の対象拡大であり、②の雇用保障責任に限定正社員制度や該当するのが解雇の金銭解決である。③の労働条件変更は、労使合意で簡単に不利益変更もできるようにしようということである。
これらの提言のうち、安倍政権は日本経団連に忠誠を誓うかのように、①と②については今国会で労働基準法「改正法案」として上程している。そしていよいよ解雇の金銭解決に踏みだそうとしている。
規制改革会議のメンバーは大企業の経営者が多数
規制改革会議のメンバーは、次のとおりであり(官邸ホームページから)、議長は岡素之氏である。<五十音順、敬称略>
安 念 潤 司 中央大学法科大学院教授
浦 野 光 人 株式会社ニチレイ代表取締役会長
大 崎 貞 和 株式会社野村総合研究所主席研究員
大 田 弘 子 政策研究大学院大学教授
岡 素 之 住友商事株式会社相談役
翁 百 合 株式会社日本総合研究所理事
金 丸 恭 文 フューチャーアーキテクト株式会社代表取締役会長兼社長
佐久間 総一郎 新日鐵住金株式会社常務取締役
佐々木 かをり 株式会社イー・ウーマン代表取締役社長
滝 久 雄 株式会社ぐるなび代表取締役会長
鶴 光太郎 慶応義塾大学大学院商学研究科教授
長谷川 幸 洋 東京新聞・中日新聞論説副主幹
林 いづみ 永代総合法律事務所弁護士
松 村 敏 弘 東京大学社会科学研究所教授
森 下 竜 一 アンジェスMG株式会社取締役・大阪大学大学院医学系研究科教授
一見してこれらのメンバーの中に、労働者を代表する者は含まれていない。
企業の代表が、企業の利益になる内容を答申したものと理解できる。
労働者の就労権を認める方向での改革を
解雇の金銭解決制度を制度化しなくても、現在でも金銭で解決するケースはいくらでもある。制度がないとできない特別な事ではない。
それなのに、わざわざ制度化しようとするのは、やはり解雇しやすい環境をつくることが狙いであると考えざるを得ない。
第一次安倍政権で検討されていた金銭解決のレベルは「労使協議会で予め決める」とされていた。
この制度を悪用しようとすると、企業にとって気に入らない労働者はいつでも解雇することができる。
労働組合の幹部を狙い撃ちにして解雇すれば、労働組合を潰すことも容易となる。
裁判に負けることと一定の金額を支払う覚悟さえあれば、違法な解雇もやり放題である。
金銭解決の申出は労働者のみ?
本年3月27日付しんぶん赤旗の報道によると「規制改革会議の意見書では解雇の金銭解決の申し出は労働者側からのみ認め、企業からの申し出は見送った」とある。
いかにも労働者側に立っているかのような物言いであるが、行政への相談件数ではパワハラ相談が激増している昨今である。
パワハラでいじめ抜いた上で解雇したら、労働者は裁判で勝っても職場復帰する意欲を維持し続けるのは困難である。実際、そのような労働者を多く見てきた。
「解雇は許せないが、職場に戻りたくない」となれば、金銭解決とならざるを得ないのである。
制度ができれば、「申出を労働者側だけに認めるのは不公平、企業にも認めるべきだ」と、財界は主張し始めることは予想されることである。
労働組合潰しの狙いだけに限らず、整理解雇の4要件も骨抜きとなり、リストラやり放題も可能である。
こんな制度は、労働者の生活と権利をいっそう狭めるだけでなく、国の将来をも危うくすることに繋がるもので、規制改革会議の答申を実現させてはならない。
現在の判例は、違法な解雇であれば「従業員としての地位を認める」との水準にとどまり、労働者の就労権までは認めていない。
むしろ、就労権まで認める方向での改革が求められている。
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