最近、「解雇された。解雇通知書には、就業規則第●●条に違反しているので、就業規則●●条によって解雇する」と書いてあり、就業規則の該当条文のコピーが同封されてきたが、就業規則があることさえ知らなかった。」との相談が寄せられ、この記事を書くことを思いついて「問題だらけの過半数代表者の選び方と役割①」(この記事では「前編」という)を書いたのだが、

あれっ 同じような記事を書いたことがあるような・・・

で、過去の記事を調べてみると、やはりあった。

続編を書くかどうか迷ったが、以前の記事はネットの世界に埋もれてしまい、世間の目にふれないところで存在しているので、続編を書いている。

出番が多い過半数代表者

過半数労働組合が存在しない事業場では、過半数代表者の出番は多い。

労働基準法で、36協定(時間外及び休日労働に関する協定)の締結を定めている労働基準法第36条の条文は次のようになっている。

(時間外及び休日の労働)
労働基準法第36条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、構成労働省令定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(略)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

ここに、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者が登場する。

上の赤字部分は、労働基準法の至るところに見られる。

労働基準法だけでなく、例えば、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律、労働安全衛生法などにも同様の文言が見られる。他にもたくさんあるが、調べ尽くすのも時間がかかる話ですので打ち止めにする。

また、少し表現は変わるが、破産法にも同様の規定がある。

破産手続開始の公告等

破産法第32条 裁判所は、破産手続開始の決定をしたときは、直ちに、次に掲げる事項を公告しなければならない。
3項4号 労働組合等(破産者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、破産者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合がないときは破産者の使用人その他の従業者の過半数を代表する者

それはまた、会社更生法や民事再生法にも同様な規定が置かれている。

このように、過半数労働組合があれば良いのだが、それがない場合は、過半数代表者の出番であり、それだけにその役割は大きいのである。

なぜ過半数労働組合が先にくるか

労使協定を締結する当事者としては「労働者の過半数で組織労働組合」が先にくる。

それは、過半数を組織する労働組合を労働者の代表と認め、労働組合の集団的な議論と検討に基いて協定することを要請されるからであり、有効な手段とも言える。

過半数代表者は、そのような過半数労働組合がない場合の、いわば「代替措置」として置かれているのであり、過半数 代表者を通じて過半数の労働者の意思を体現させようとするものに他ならない。

過半数代表者は法律でどのように規定されているか

過半数代表者の選出については、かなり曖昧な点が多い・・・と思われる。

労働基準法施行規則は下記のようになっている。

(過半数の労働者を代表する者)
労働基準法第6条の2 (冒頭部分は略) 労働者の過半数を代表する者(以下、「過半数代表者」)については、次のいずれにも該当する者とする。
1 法第41条第2号 に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
2 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。

第1号は、どのような人物が過半数代表者になれないのか

第2号は、過半数代表者を選出する手続き

が記されている。しかし、それだけである。

第2号には、「法に規定する協定等を明らかにして」とあるが、それは前編①に紹介した事例2のように、「就業規則、諸規則改定に対応するため」で許されるのか、内容の開示まで求められるのか判然としない。

また、「投票、挙手等の方法による手続き」とあるが、投票する選挙の事務は誰が主体となるのか

「挙手」とあるが、挙手で決めるためには労働者が一堂に会さなければならないが、誰がどのようにして、労働者を一堂に集めるのか、についても定かではない。

過半数代表者が会社と対抗関係の立場に立つことも想定されている

過半数代表者は、労働者の過半数を代表する者であるから、労働者の意思によっては、会社と対抗関係に置かれることある。だから、過半数代表者への不利益取扱を禁止するとともに、必要な配慮を行うことを求めている。

施行規則6条の2第3項 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱をしないようにしなければならない。
同条第4項 使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない。

過半数代表者とは、過半数の意思を体現する者であって、単なる個人としてあるのではない。

過半数代表者は、仮に会社の提案(就業規則の作成・改定であれ、労使協定に作成・改定であれ)に個人としては賛成であるとしても、過半数の労働者が反対の意思を示すのであれば、個人としての賛成は脇において、反対の立場で行動しなければならない。

そこで思い出されるのが、前編で紹介した「基発第1号」である。

それには「使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならない」である。

会社が選挙事務をとりしきり、記名投票を強行することに、会社の意向は入り込まないのか?

前編で紹介した事例3の場合、労働組合は労働者の要求を実現するためにたたかい、会社とは対抗関係にあった。対立候補として立候補した人物は、経営者と良好な関係にあることは、職場のだれもが一致する人物である。それで以降の文中では会社派人物と記載する。

会社が管理する選挙で、記名投票を強行することは、誰が会社派人物に投票したが、労働組合代表に投票したかが明らかになる。

労働組合代表に投票すれば、組合員でなくても組合支持者として、不利益に取り扱われないか、嫌がらせを受けないかなどと、労働者が考えるのは自然であり、会社派人物に票が流れることは自明である。

まさに、過半数代表者が使用者の意向に沿って選出される結果を生むことになる。

また、社長が睨みを利かす朝礼で、管理職が「これまでAさんに過半数代表者をお願いしてきましたが、今度Bさんにお願いしようと思います。反対の人は手を上げて下さい」のやり方で過半数代表者を選出する会社もあるが、社長の前で反対に手を挙げるのは、それなりの覚悟が必要である。

投票や挙手などというのは、労働者が自由な意志で投票なり挙手なりできる環境でなされなければならないし、そうでなければ「会社の意向に沿った」人物が選ばれる蓋然性が極めて高い。

前編で紹介した事例2のように、部長や課長がやってきて「宜しく」と言われれば、嫌とは言い難い。

この事例では、労働者は立候補する権利さえ奪われている。

そうであっても、沖縄労働局は「違法ではない」との見解である。

労働者に内容も知らさず、「過半数代表者」がサインできるのか

先に紹介した施行規則第6条の2第4項「使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない」は、過半数代表者がその役割を果たすために、何らかの事務を行うことを想定している。

前編で紹介した三つの事例の全てで、過半数代表者は労働者の意見を聞くことなく、サインしている。

それなら、何の事務も必要ないし、会社の配慮も必要ない。

この条文は、過半数代表者が就業規則は協定に関する会社案に対する労働者の意見を聴取する事務を指しているのであり、例えば聴取する時間を勤務時間中に保障するなどの配慮を指していると考えられる。

内容を労働者に知らせることなく、過半数代表者がサインしても、沖縄労働局の見解は「違法ではない」のである。

全ては密室でなされるわけだから、サインした過半数代表者さえ、内容について十分説明を受けたのかも怪しいものだが、それでもOKなのである。

「基収6206号」(昭和46年1月18日)に、次のような記述がある。

これは、「残業をしない者も過半数を選ぶ労働者に入ると思うがいかがか」との趣旨の質問に応える形となっている。その後も基発などで度々登場している。

労働基準法第36条1項の協定は、当該事業場において法律上又は事実上時間外労働又は休日労働の対象となる労働者の過半数の意思を問うためのものではなく、同法第18条、第24条、第39条及び第90条におけると同様当該事業場に使用されているすべての労働者の過半数の意思を問うためのものであり、貴見のとおりである。

過半数代表者を選ぶのは、意思を問うためになされる行為である。

逆に言えば、労働者は改定案に対する意思を問われなければならないのだ。

人気投票のように選任された過半数代表者であったとしても、労働者に意思を問わなければならないのである。

重ねて言うが労働者は改定案に対する意思を問われなけれならないし、過半数代表者に白紙委任したわけではない。

それでも、沖縄労働局は「違法ではない」と言うのだ。

「法に規定する協定等を明らかにして」とは内容の開示まで含む

このように見てくると、施行規則のいう「法に規定する協定等を明らかにして」とは、前編事例2で紹介したように、ただ単に「就業規則、諸規則改定に対応するため」だけではなくて、協定内容まで開示することを予定しているといえる。

前編で紹介した事例3の場合、立候補した2人ともこれからサインしようとする就業規則の内容を知らされつことはなかった。

選挙でありながら、会社によって争点となるべき所が隠されているのだが、それでも沖縄労働局に言わせれば「違法ではない」のだ。

過半数代表者の望ましい選出と意思表示について

最後に、過半数代表者の望ましい選出方法と意思表示はどのようなものか、考えてみよう。

押さえておかなければならないのは、過半数代表者を選ぶのは労働者自身であって、会社ではないという点だ。

確かに会社は、過半数組合がない場合には、過半数代表者と協定をしなければならないが、だからといって過半数代表者を選ぶ権限が与えられているのではないという点だ。

1 会社は協定内容を労働者に説明し、疑問・質問にたいして丁寧に答える

会社は、労働者の意思を体現する過半数代表者と協定しなければならないのだから、労働者を一堂に集めて内容について説明し、労働者の疑問や質問にも丁寧に答える。

協定することは、会社の必要に対応することであり、労働者の参加を保障する意味でも、勤務時間中に行われることが望ましい。

労働者が自分たちの代表を選ぶとしても、誰かが労働者全員を集めるのは困難であり、労働者数が多ければ多いほど困難の度合いは増す。不可能な場合が多い。

やはり、会社が労働者を集めて説明するしかない。

2 説明から過半数代表者の選出までは一定の期間をおく

会社が説明し、疑問や質問に丁寧に答えたとしても、必ずしもその場で賛否の結論を出せるものではない。

その場では理解したつもりでも、一晩たてば疑問が湧いてきたりする場合は多い。

また、まわりの労働者と話し合う中で、認識が変化することも少なくない。

そのため、一定の時間が必要であるし、会社は、いつでも質問に答えるようにする。

それは、労働者一人ひとりが自分の意思を定め、表明するために必要である。

3 会社が労働者を集め過半数代表者を選ぶ場を設定する

先に述べたように、労働者個人が労働者全員を集めるのは困難であり、不可能な時も多々ある。

したがって、労働者が一堂に会する場の設定は会社がすべきである。

労働者が集まったところで、会社は改めて労働者が協定の内容を理解しているか確認し、質問があれば受け付ける。

質疑応答が一区切りすると、会社は退席する。

4 選出方法も労働者自身が決める

会社が退席すると、年長の労働者など相応しいと思われる人を進行役になってもらいすすめる。

進行役は、過半数代表者をどのように選ぶのか方法を話しある。

その際、労働者は誰でも過半数代表者になるために立候補数する権利を有しているのだから、立候補者がいれば、それが単数なら挙手でもよいし、複数なら選挙をしても良い。

立候補者は協定に対して「賛成」、「反対」、「現状では賛成できないが、××部分を○○に変えれば賛成できる」など、立候補する所信を表明する。

誰も立候補する人がいない場合もあり得る。

その時は、労働者集団の意思がどこにあるかを話しあうことだ。

過半数の意思が「賛成」が「反対」か、一部の内容を変更すれば良いのか、そうであればどの部分をどのように変更すればよいか。

過半数の意思が確認できたところで、過半数の意思にしたがって動いてくれる人として誰が適任か、他薦も含めて話し合って決める。その場合は、推薦された人に対して押し付けにならないように気をつける。

5 過半数代表者は随時報告し、意見を求める

就業規則の場合は、法律上の要件として「意見書を書く」ことで足りるので、それほど尾をひくことはない。

しかし、協定となるとそうもいかない時もある。

「賛成」「反対」だけでは済まず、過半数の労働者の意思を協定に反映させるために、交渉しなければならない場合もある。

その場合は、交渉の内容を労働者に伝え、改めて意見を聞かなければならないこともある。

こうした事務を行うために、会社に必要な配慮を求めることが必要だ。

ア 会社に労働者を集めてもらう。

イ 過半数代表者が職場を訪問する機会を保障する。

ウ 掲示板や回覧板、社内イントラネットの使用

等々、職場の実情にあった形でやれば良い。

最終的に会社と過半数代表者との交渉で解決するか、交渉決裂で無協約状態になるか。

いずれにしても、職場の仲間は過半数代表者任せにすることなく、過半数代表者をサポートする態勢をつくりあげることが肝要だ。

こうした経験を通して、協定するという一過性のことから、恒常的に労働条件の向上をめざす労働組合結成へと飛躍する可能性が生まれるかも知れない。