2010年3月末で宮古島市から雇止めされた上里清美さんが、雇止めは不当として宮古島市に132万円の損害賠償を求めた裁判の判決が、2月5日那覇地裁平良支部で言い渡された。
判決は、原告の請求を棄却する不当な判決である。
宮古島市非常勤職員雇止め事件の概要
宮古島市は平成18年(2006年)2月に、婦人保護事業の効果的推進を図るため、継続的な事業として女性相談室を設置し、特別職の非常勤嘱託の女性相談員を置くこととした。女性相談員の職務は売春防止法に基づく要保護女子及び配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律に基づく被害者についての相談、指導、保護等である。
上里清美さんは、平成18年(2006年)3月1日に女性相談員として任用された。任用期間は3月31日までであった。その際、上里さんは児童家庭課長から「任期は1年となっているが、再任は妨げないとされているので、希望すれば10年でも働ける」と告げられている。
その後は4月1日から翌年の3月31日までの1年を期間として、繰り返し任用されてきた。再任用については3月末に係長から再任用希望を口頭で確認されるだけで、委嘱状も4月になって交付される状況が続いていた。
平成21年(2009年)1月25日に行われた宮古島市長選挙で、下地敏彦現市長が当選した。
その直後の3月30日、上里さんは児童家庭課の係長から「仕事は3月いっぱいで終わりです」と4月から再任用しないことを告げられた。
この雇止めについては、上里さんの抗議と自治体一般労働組合(現「公務公共一般労働組合」)の取り組みによって、変遷はあったものの平成22年(2010年)3月31日まで再任用することで決着した。
平成22年2月25日、宮古島市は上里さんを含め任用期間満了が迫る多数(400人以上)の非常勤嘱託員に対し、同年3月31日をもって任用期間が満了する旨を書面で通知した。
満了通知を受けた非常勤のなかには再任用される者もいたが、上里さんは再任用されなかった。
女性相談員と同じく福祉保健部に所属する家庭児童相談員の場合は、任期の上限は5年と定められているが、女性相談員には上限は設けられていない。
そこで、上里さんは、宮古島市による不再任用には合理的な理由はなく正当な期待権の侵害であり、また、合理的な理由なく差別的取扱いを受けないという人格的利益の侵害であるとして、国家賠償法に基いて損害賠償を求めたのが本件損害賠償事件である。
宮古島市非常勤雇止め事件の争点
本件の争点は「原告が有する再任用への期待権又は再任用について差別的取扱いを受けないという人格的利益を侵害し、国家賠償法上違法か。」という点である。
那覇地裁平良支部の判断
原告が任命権者から任用継続の確約又は保障を受けたなどの特別の事情は見当たらず、他に同事情を認めるに足りる証拠もない。そうすると、前記認定の経過(10年でも働ける)において、原告が再任用に期待を有していたとしても、それは未だ事実上の期待に止まっていたものというほかない。
本件告知の当時、被告においては、非常勤職員の再任用について、新たな任用であることを前提とした厳格な手続も取られていなかったものであり、原告主張のとおり、被告の運用上、非常勤職員の再任用が常態化し、再任用手続も形骸化しているなどの客観的状況がある場合には、任命権者が直接に任用継続を確約又は保障したものでなくとも、それと同視できる場合もあり得るものと資料される。しかしながら、本件においては、被告における女性相談員は原告1人のみであって、事情の異なる他の職種との比較において直ちに被告の運用とみることはできない。
任期満了という以外に、原告を再任用しない合理的理由を有していたのかについては疑問の余地もあるが、任用(再任用)そのものについての任命権者の裁量が広く認められるべきことからすると、原告主張の法的構成を前提にしても、結局のところ、本件証拠上、本件不再任用に合理的理由がないとまで認めることはできない。
宮古島市非常勤雇止め訴訟判決についての管理人の感想
任用継続の確約又は保障として、裁判所は何を求めているのか。「10年間に渡って再任用する」というのだろうか。「10年でも働ける」と言われれば、労働者が10年間は再任用が可能だと期待するのは当然である。
他の相談員には設けられている任期の上限が、女性相談員には設けられていない点も、ある程度の継続を想定していると考えられる。
日立メディコ事件で、最高裁は「季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、5回に渡り契約が更新されてきた労働者を契約期間満了におって雇止めするにあたっては、解雇に関する法理が類推され、・・・解雇権の濫用などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に私用車が新契約を更新しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。」と判示している。
また、反復更新がなくとも、契約更新を期待させる使用者の言動により、労働者の期待権を任用した判決もみられる。
民間の事件であれば、通用する議論ではない。
再任用手続の形骸化と常態化は、解雇権濫用法理を類推する重要なポイントであるが、「被告における女性相談員は原告1人のみであって、事情の異なる他の職種との比較」はできないと、狭く捉えている。同一の任命権者の下での非常勤職員の再任用の在り方がどうなのかという広い視点が必要である。
そうでなければ、例えば5人いれば請求がいれられ、一人ではいれられないという事態が生じることになりかねない。
「原告を再任用しない合理的理由を有していたのかについては疑問の余地もある」としながら、「任命権者の裁量が広く認められる」として、原告の主張を退けているが、結局はお決まりの任用論、裁量論で逃げているとしか思われない。
本件とは別の事件であるが、80年代に米軍基地内の理髪店で「レジからお金を盗った」として、5人の労働者がパス(基地内通行証)を取り上げられ、会社から解雇される事件があった。
那覇地裁は「労働者が盗ったという証拠はない」としながらも、「基地司令官には広範な裁量権がある」として、労働者の訴えを認めず、福岡高等裁判所那覇支部と最高裁判所も1審判決を維持した。
広範な裁量権というのは、司法にとって黒も白と言える魔法の言葉となっている。