広島県に本社を置く株式会社エスティーエスを相手方としてたたかってきたKさん(申立人)の労働審判事件は、和解が成立せずに10月22日、「相手方は、申立人に対し、本件解決金として金7万円の支払い義務があることを認める。」との審判が言い渡され、双方異議を申し立てることなく確定しました。
エスティーエスが確定審判で示された金額を支払い、解決となりました。

申立人は不当利得を得ていると相手方は主張

申立人が、労働審判に求めた内容は、主として未払いとなっている残業代12万5558円を支払えというものです。
それに対して、エスティーエス(相手方)は、残業代の未払いはなく、逆に申立人は不当に貰いすぎていると主張してきました。
(注)下記の文中カギカッコ「」内は、相手方答弁書、申立人主張書面、陳述書からの引用です。
残業代の未払いがないという根拠として挙げているのは、「申立人は登録型派遣労働者であり」、旅行業は「季節変動が激しいために1か月単位の変形労働時間制を労働基準監督署に届け出ており受理されている。」というものです。
そのうえ、申立人は貰いすぎている不当利得があると主張してきました。
① 「始業時間、終業時間は規則にあるように、始業時間はお客様の集合時間(フライト時刻の1時間前)の30分前からスタンバイとして始業であり、終業時刻はフライトの飛ぶ時間で終業」となるのに、「申立人はスタンバイ時間を異常早く記入している。」
 「賃金規則にも労基法にもない早朝手当を不当に要求し、6時以降にもかかわらず毎回1,000円を要求し支払いを受けていた。」ので、「多額の不当利得が存在するものと考えております。」と主張しています。
② 通勤手当についても、「“ゆいれーる”(モノレール)で通勤しているが、定期を購入しないで実費請求しており、(省略)申立人は毎回購入したように請求し受領しております。まして申立人が定期を購入していたにも関わらず、毎回購入していたように請求し受領していたなら、詐欺行為に当たり、これも大きな不当利得にあたります。」とも主張しています。

相手方主張に対する申立人の反論

これに対して、申立人は、沖縄営業所では就業規則は周知されていない。1ヶ月単位の変形労働時間制の要件を満たしていない。申立人はそんなことを聞いたこともない。などと反論しています。
①については、集合時間の30分前にスタンバイしてできる場合もあるが、お客さんの数やリクエスト数によっては間に合わない場合もある。前所長からも「しっかり準備して、ミスがないように」と言われていた。
現所長からも、10人程度の団体客に対応するのに30分前にスタンバイすれば良いと考えて出勤すると、もっと早くスタンバイするようと言われたことがある。
 早朝手当については、前所長には、体がもたないので早朝の勤務を断ってきたが、朝から晩まで休みなく働いていた前所長から「1000円付けるからやって欲しい」と頼まれて早朝勤務をしていたのであって、不当に要求したものではない。
②については、会社から定期券を購入してくださいと言われれば購入していた。しかし、定期券を買っていながら、不正に実費を請求していた事実はない。(実際は、オキカカードを買って運賃は払っていたが、運賃の割引はなかった。)
結局、主張は平行線のまま3回目の審判を迎え、和解ができない状態であったため、審判となりました。

Kさんは「不当利得返還」で一時少額訴訟の被告に

労働審判事件が継続中の7月31日付で、エスティーエスはKさんに対して、懲戒処分として「今後の雇用の見込まれないため登録抹消といたします。」との通知を送付してきました。事実上の解雇です。

それに先立って、エスティーエスは7月21日、Kさんを被告として、広島簡易裁判所に「給料と交通費の差額33万5960円を支払え」との少額訴訟を起こしました。

少額訴訟の顛末については、別に報告することにします。