新成長戦略・骨太方針は大企業の利益優先
安倍内閣は、去る6月24日、雇用分野における「新たな労働時間制度の創設」、「裁量労働制の新たな枠組みの構築」などを盛り込んだ新成長戦略を決定した。
いずれも、財界が実現を強く主張していたものである。
裁量労働制とは会社が指揮命令を発して働かせることが適当でない業種について、労働者の裁量で働き、その労働時間はあらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度であり、労働基準法第38条の3で専門業務型裁量労働制が、第38条の4で企画業務型裁量労働制が定められている。
今回持ち出してきた(正確には第一次安倍政権のときも「ホワイトカラーエグゼンプション」として法制化しようとした。)「新たな労働時間制度の創設」とは、労働時間と報酬を切り離した制度として考えられている。
これらの制度を推進する人たちは、
「時間で賃金を計算するのは工場労働者には良いが、事務系の労働者にはそぐわない。」と主張し、
成果さえ出してくれれば、労働時間に縛られずに早く帰っていいんだよ。」と猫なで声でささやく。
その一方で「だらだらと仕事をして残業代を稼ぐ人がいると、真面目に働く人がバカを見る。」などと、もっともらしい非難を浴びせかける。
仕事が終わらない職場の実態
日本の労働現場において、本当に仕事が終われば早く帰れる環境があるだろうか?
<事例1>システムエンジニア
通常は1か月程度かかる仕事を、社長が「半月で上げる」と超短期で契約をとってきた。
社長の「必ず半月で仕上げろ」との厳命が下り、かと言って人を増やしてくれる訳でもない。
いきおい、残業においまくられ会社で夜を明かす時もある。
<事例2>企画部門の労働者
企画開発型裁量労働制を導入しているからと言われて、何時間働いても月30時間程度の残業代しかでない。
協定書の類は見たことも聞いたこともない。
裁量はまったくなく、細かいとこまで上司がいちいち指示してくる。
上司が気に入らなければやり直しで残業させられる。
<事例3>総務系の職場
担当の仕事が終わっても、上司が返らない限り帰れない。
意を決して早く帰ると、「君は他の人と比べて業務がすくないね。」と翌日嫌味を言われ、他の仕事も回される。
上司が快く思っていない人に対してはひどいパワハラで、辞めさせてしまう。
このような事例は、労働相談の現場では何も特別な事例ではない。
残業代ゼロはお金だけでなく命まで奪う危険が
このような風土がはびこる日本の職場に「新たな労働時間制度」が持ち込まれるとどうなるか。
仮に優秀な人が他の人と同じ成果を半分の時間で成し遂げたとして、4時間働いて「俺は成果を出したから今日は帰る」と帰れるのだろうか?
さらに仕事を押し付けられるのがオチである。
過大なノルマを押し付けられ、夜中までがんばっても「成果がでない」と評価されれば、残業しても残業代は一切でない。
残業代ゼロと言われる所以である。
成果とか評価とか言われるものはどのようなものか?
事例を一つ上げよう。
あるガソリンスタンドの店長の話である。
毎年2割増の売上を目標とさせられた。
目標を達成するとそれなりに賃金が上がるが、目標が達成できなければ2年前の賃金に落とされる
というものである。
これはとてつもない目標である。
1年目を100とすると、
2年目=100×1.2=120
3年目=120×1.2=144
4年目=144×1.2=172.8
5年目=172.8×1.2=207.36
5年で売上を倍にすることなど、軌跡でも起きない限り不可能である。
結局、その店長の賃金は店長なりたての頃より低かったのである。
年収1000万円以上の労働者が対象だと言われて安心してはいけない。
消費税をみればすぐに分かることだ。
最初が3%が5%に、そして8%となり来年には10%にしようとしている。
15%や18%、20%と主張する輩もいる。
制度ができれば後は中身を変えるだけ。
希望する者が対象だと言われて安心してもいけない。
会社から「君どうかね?」と肩をたたかれて断れる労働者がどれだけいるだろうか?
頼れる労働組合があれば、防波堤になってくれるが、今や労働組合の組織率は2割を切っている。
沖縄に限れば1割である。
現在でも過労死・過労自殺が絶たないというのに、こんな制度がつくられるとお金を奪われるだけでなく、命まで奪われかねない危険が増大しかねない。
制度をつくらさないことが肝要である。
多くの労働者が「残業代ゼロとんでもない」、「裁量労働の改悪許さない」の声を上げるときである。
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