3月21日付の沖縄タイムスに「運転手40人一時解雇へ 観光バス会社 業績悪化で事業縮小」の記事が掲載されていました。

この会社の業績は、昨年3月の1日当たりの稼働台数は約30台だったが、今年は1~2台程度で、売上げは99%減少したとのことです。

なぜ、一時解雇なのか、新聞紙面から会社の言い分を聞いてみましょう。

仕事が急減し、時給制の給与も大幅に下がっている。失業保険を利用しながら一時的にしのいでもらう方がいいと判断した。給料が時給制のため、仕事がなければその分収入は下がる。社会保険料の支払い負担も大きくなるため、契約をいったん打ち切り、失業保険の手続きを進めるのがベターと判断した。

いかにも労働者のためを思っているような口ぶりですが、疑問が湧いてきます。

時給制だから、仕事がないから、だから給料を払ってこなかったのでしょうか?

時給制というのは、1時間当たりの賃金額を決め、それによって賃金を計算するというだけに過ぎません。

この会社の考え方に立てば、日給制であれ、月給制であれ、仕事がなければ給料を払う必要はないということになります。

ロイヤルリムジングループ(東京)が、「休ませて休業手当を支払うより、解雇して雇用保険の失業給付を受けたほうがいいと判断した」として、約600人の大量解雇を強行したことで、休業手当より失業給付が労働者の利益になるかのような印象を与えています。

失業給付はどれくらいもらえるか?

失業給付がどのくらいもらえるのか考えてみましょう。

賃金日額1万円、離職時の年齢が45歳の労働者を仮定します。

雇用保険の基本手当日額は、離職した日の直前6か月の賃金から算出します。

45歳から59歳までの基本手当日額は、yを基本手当日額、wを賃金日額として、

y=0.8w-0.3{(w-5,010)÷7,320}w

で計算しますので、5960円となります。

ちなみに、60歳から64歳までの計算は下記の式によります。

y=0.8w-0.35{(w-5,010)÷6,080}w  と、y=0.05w+4,436 で計算したいずれか低い方の額となっています。(高い方の額とすれば良いのにね)

休業手当でいくらもらえるか

大体、企業が一方的に休業を宣言して休業手当を支払っても、労働基準法の最低限である「平均賃金の100分の60」しか払いません。

平均賃金は直近の3か月の賃金を暦日で割りますから、次のようになります。3か月の暦日は91日あるものと仮定します。また、賃金は日額1万円、月の就労日数22日と仮定します。

平均賃金は、220,000×3÷91=7,253円となり、その6割だと休業手当は4,352円にしかなりません。

このように「休業せよ、休業中は6割の賃金を補償する」と言われて、1万円の6割=6000円払ってもらえると思っていたら、逆に6割カットという事態が起きてしますのです。

失業給付の日額5960円と休業手当の日額4352円の差は1608円になります。

やっぱり解雇されて失業手当をもらった方がお得!

と思うかも知れません。

労働者から解雇してくれと申し入れた!

実際、一昨日(4月17日)には、観光バス会社の運転手から「会社に解雇してくれと申し入れたが、それで良かったのだろうか」との相談が寄せられています。

労働者としては、「高い方が良い」と考えるのは当然ですから、失業給付を選びたくもなります。

但し、45歳から59歳までの賃金日額が12,330円から16,670円以下の労働者の基本手当日額は50%、賃金日額16,670円超の労働者は上限額の8,335円となります。

また、離職時の年齢が65歳以上の労働者は一時金として受け取れるだけです。

65歳以上の労働者は、上記の式で計算した基本手当日額の30日分(被保険者期間が1年未満の場合)、50日分(被保険者期間が1年以上の場合)が一時金として支給されます。

「失業給付がメリットがある」として、リムジングループから解雇された73歳の労働者が「失業給付は利用できず、わずかな一時金しか支払われない」と憤っているのも、こうしたことによるものです。

一概に「メリットがある」とは言えません。

通常の賃金全額を要求してがんばろう

仕事がなくて休業せざるを得ないのも理解できる。

でも、どうすればいいんだろう。休業手当だけでは生活は大変、とても暮らしていけない。

労働者は悩んでしまいます。

そもそも、労働者は1日8時間、週40時間働いて○○万円の賃金というような労働契約に基づいて働くことになっていますし、現に働いてきました。

そうであるにも関わらず、仕事が確保できないという会社の都合で休業させられるのですから、「仕事ができないのは労働者の責任じゃない、仕事がなくても賃金は全額払え!」と要求すべきです。

が、①休業の要因が会社外のできごとにあり、②会社の力では防ぎようがない場合には、会社は必ずしも賃金の100%を払う義務はありません。

それでも、労働基準法第26条の「平均賃金の100分の60以上」の休業手当は払わなければいけません。

労基法は100分の60を上限にしてはいませんが、お金を払う立場の会社は100分の60を支払えば罰則に問われないから、一方的に100分の60しか払わないのです。

労働者としては、「100分の60以上」の「以上」の部分を要求するのは当たり前の権利です。

労働基準法も「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」(第1条)と、「以上」の部分での努力を労使双方に求めています。

また、労働契約法は「労働条件の変更は合意によるものであり、一方的な不利益変更はできない。」と定めています。

このように「以上の幅」をどうするかは労使の交渉によって決めるのが当然のことなのです。

交渉の強力なツール それは労働組合

「交渉によって決める」といっても、労働者一人の力と会社の力とは、圧倒的に会社が強い力を持っています。

そこで思い出して欲しいのです。

「労働者には憲法28条で『団結権』、『団体交渉権』、『団体行動権』が保障されている」ことを。

要は、労働者一人で交渉するのではなく、集団の力で交渉するのです。

この「集団の力」を発揮するための手段として、労働組合があるのです。

労働者の力は一人ひとりでは弱くても、労働組合に参加しての集団の力はとても大きいのです。

労働組合は、何も会社と対立するためにあるのではないのです。

憲法で保障された権利を行使し、今まで会社が一方的に決めてきた労働条件の決め方を、これからは団体交渉で会社と労働者が話し合いによって決めるあり方、言葉を換えれば憲法と法律の精神に立って、民主的に決めるやり方に変更しようとするだけのことなのです。

労働組合に加入する、あるいは労働組合をつくることは、勇気がいることですが、それは少しの勇気で足りるのです。

さあ、あなたも少しの勇気をだして団結権(労働組合に集う権利)を行使しましょう。

団結権の次は、団体交渉権(労働組合と会社の話し合う権利)を行使しましょう。

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