南部地域の保育園を3月に退職したという女性(仮にAさんという)が、沖縄県労連を訪ねてきた。
「ハローワークから『やむを得ない事情による、一身上の都合による退職でいいですか?』と尋ねられたが、意味が分からない。どのように対応したら良いですか」との相談である。
事情を聞くと、「園長から泥棒扱いされたり、暴言を度々浴びせられたりして、パワハラに耐えられない。3月で退職した」とのことであった。それだから、離職票の離職理由欄に保育園側は、自己の都合による退職にチェックを入れてあったが、自分はそれは違うと思うので、「事業主または他の労働者から就業環境が著しく害されるような言動(故意の排斥、嫌がらせ等)を受けたと労働者が判断したため」欄にチェックをつけてハローワークに提出した。元同僚二人の陳述書(証言書)も提出した。
その後、ハローワークからの連絡が先に記した「やむを得ない事情による、一身上の都合による退職でいいですか?」というものであった。
特定受給資格者としての認定を求めているのに
雇用保険には、例え労働者が自ら退職届を提出して退職しても、退職に至る事情を考慮して会社都合による解雇と同様の給付を行う制度がある。それが、特定受給資格者と特定理由離職者である。
厚生労働省の印刷物には、下記のように記されている。
特定受給資格者の範囲
1、「倒産」等により離職した者
(1) 倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申立て又は手形取引の停止等)に伴い離職した者
(以下、略)
2、「解雇」等により離職した者
(1) 解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
(2) 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
(3) 賃金(退職手当を除く。)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったことにより離職した者
(4) 賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
(5) 離職の直前6か月間のうちに[1]いずれか連続する3か月で45時間、[2]いずれか1か月で100時間、又は[3]いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者。事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
(6) 事業主が法令に違反し、妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ、若しくはそれらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限したこと又は妊娠したこと、出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし、若しくは利用をしたこと等を理由として不利益な取扱いをしたため離職した者
(7) 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
(8) 期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
(9) 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記(8)に該当する場合を除く。)
(10) 上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者、事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者及び事業主が職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)
(12) 事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3か月以上となったことにより離職した者
(13) 事業所の業務が法令に違反したため離職した者
Aさんは、離職票の「事業主または他の労働者から就業環境が著しく害されるような言動(故意の排斥、嫌がらせ等)を受けたと労働者が判断したため」欄にチェックを入れているということは、詳しい制度内容は分からないまでも、特定受給資格者としての認定を求めたことになる。
特定受給資格者として認定されると、会社都合の解雇と同じように、3か月の給付制限期間がなくなり、条件によっては給付日数が自己都合退職より厚く(長く)なる可能性がある。
それなのに、「やむを得ない事情による一身上の都合による退職」とは?
念のために確認すると、パワハラ以外に退職理由はなく、一身上の都合などない」とのことである。
園長への調査はしていない!
なぜ、そういうことになるので、その場でハローワークの担当者に電話して事情を聞くことにした。
担当者は「園長が認めないと難しいので、そのように伝えたが、Aさんから返事が来ない」という。
パワハラした人間が、「はい、私はパワハラを働きました」などと認めることは10中8・9あり得ない。
例え、園長がパワハラを否定したとしても、双方の主張と証言を勘案して、判定を行うのが職安所長でなければならない。
ところが、話のなかで明らかになったのは「園長への聴取はしていない」だった。
園長に対する調査もしていない段階で「やむを得ない事情による一身上の都合による退職」をAさんに持ちかけてきたのだ。
電話でのやりとりの結果、Aさんの家計の事情も考慮(3月に退職して今は5月も末で収入がなくなる)して、「とりあえず、『やむを得ない事情による一身上の都合による退職』で手続きをして給付する。園長に対してもきちんと調査した上で、特定受給資格者と認定した時は、その時点で是正する」ことで話をつける。
もし、Aさんが訳の分からないままに、「やむを得ない事情による一身上の都合による退職」を了解していたとすると、それで一件落着となり、園長への調査も行われなかったのではないかと思わざるを得ない一件である。
なお、このメモは、ハローワークの担当者を非難することが目的ではなく、今日のやりとりが後日必要になった時(約束に反してうやむやにされたり、特定受給資格者として認められなかった時など)のために備える備忘録としての生活が強いものである。
同じようなケースでお悩みの方がいらっしゃいましたら、全労連のフリーダイヤル 0120-378-060 まで、お気軽にご連絡ください。全国どこから電話しても、お近くの全労連加盟組合につながります。