就業規則やそれに付随する協定書が知らぬ間に書き換えられ、労働者が不利益を被る例が多い。

「以前に目にした退職金規定の計算式で計算すると、退職金は700万円になったはずなのに、いざ、退職を前にして会社から告げられた金額は400万円だった。」との相談も寄せられたこともあった。

職場に過半数労働組合があれば、経営者の勝手にはさせないのだが、就業規則の作成・変更に対する意見提出や36協定をはじめとする諸協定の締結は、会社と過半数代表者によるところが圧倒的に多い。

就業規則をめぐっては、周知の問題も多いが、過半数代表者の選び方とその役割に問題がある。

労働基準法もあまりにも不備が多すぎる。

過半数代表者をめぐる三つの事例

2017年3月、沖縄県労連は、具体的な事例を示して沖縄労働局の見解を求めた。

事例1 会社が指名した者が署名したケース

A社では、就業規則を改定するにあたり、会社が指名した者にサインをさせ、「抽選で過半数代表者として選んだことにしておこうね」と口裏を合わせて、抽選による選出と労働基準監督署に届出ている。

その「過半数代表者」は、労働者の意見を聞くことなく、個人の見解でサインしている。

従って、労働者はだれがサインしたのか、就業規則がどのように変えられたのか全くしらない。

事例2 突然管理職がAさんを過半数代表者として認めるか否かのサインを求めてきたケース

B社では、過半数代表者を選出するとの告示もなく、G氏を過半数代表者に選出することについての可否を問う名簿を作成し、部長・課長などの管理職が「持ち回り」と称して、労働者に可否を求めている。

過半数代表者の選出理由については「就業規則、諸規則改定に対応するため」と記載され、どのような改定内容であるかの記載はない。

G氏は、企業内組合の役員ではあるが、「過半数代表者」となった後に、会社からどのような就業規則の改定案が出されたのか労働者に知らせることはせず、したがって、改定案に対する労働者の意見を集約することはしていない。

ある日突然、会社から「就業規則がこのように変わりました」とのお知らせが回ってくる。

事例3 過半数代表者を選出する選挙を会社が取り仕切り、記名投票を強制したケース

就業規則を制定する際に、会社が過半数代表者を選出する選挙の告示を行い、投票事務まで取り仕切り、投票は記名投票を強行した。

この選挙には、2人の労働者が立候補した。うち1人少数組合の代表者で、会社に対して「就業規則の改定部分を全従業員に周知すること、就業規則の改定に立候補者がどのような見解で臨むのか明らかにする場を設け、無記名投票で過半数代表者を決めること」ことを会社に要求した。会社はこの要求を無視した。

選出された過半数代表者は、労働者に意見を聞くこともなく、個人の見解でサインしている。

沖縄労働局が違法と認めるのは事例1だけ

上記の三つの事例のうち、沖縄労働局が違法と認めたのは事例1だけである。

労働省の通達「基発第1号」(昭和63年1月1日)で次のように記載されている。

過半数代表者の選出方法として、(a)その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が当該事業場の労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならず、かつ、(b)当該事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続が採られていること、すなわち、労働者の投票、挙手等の方法により選出されること。」

また、上記通達にある「挙手等の「等」については、「基発第169号」(平成11年3月31日)で、次のように解説している。

労働者の話し合い、持ち回り決議等労働者の過半数が当該者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続が該当する。

これらの通達に照らして、事例1は、「使用者の指名などその意向に沿って選出」されたことが明白であるから、違法である。

しかしながら、事例2と事例3に関しては「違法とは言えない」とした。

沖縄労働局としては、自ら判断する領域を超えていたのかも知れないのだが、事例2や事例3がまかり通るなら、過半数代表者を選出する意味は失われてしまう。

なぜ、労働者が自分たちの代表を決めるのに、会社が選挙を取り仕切り、記名投票を強制することができるのか?

なぜ、就業規則(改定内容)が労働者に知らされず、「過半数代表者」が個人の判断(実際は、会社の意図)でサインすることが許されるのか?

過半数代表者とは、単なる人気投票であって、過半数の労働者の意見を代表する者ではないのか?

これらの点に関する沖縄県労連の見解については、次回の記すことにしてひとまず筆をおく。

実際は、パソコンを閉じるのだが。