沖縄県労連は、公契約適正化の運動に取り組み、これまで沖縄県をはじめ県下の自治体に対して、「公契約条例の制定」を求めてきました。
公契約条例とは、自治体が発注する業務で、仕事の品質を確保すること、労働者の賃金を一定の水準で保障することを目的として、制定する条例です。
公契約条例に先鞭をつけた千葉県野田市をはじめ、川崎市、相模原市、多摩市で制定されています。
沖縄県の識名トンネル工事に絡む虚偽契約問題は、公契約問題を考える材料を提供しており、また現在国政の大問題となっているTPP(環太平洋経済連携協定)についても、考えるべき重要な示唆を与えています。
マスコミの報道などによると、識名トンネル工事における虚偽契約とは、沖縄県はトンネル工事に必要な地盤強化工事を当初の契約から漏らしながら、途中で追加工事を業者に要求し、工事が終了した後に新規契約を装って虚偽の随意契約を交わしたというものです。
しかも、工事を主管する南部土木事務所は、虚偽契約との認識を持ちながら、会計検査院から指摘されて問題が発覚するまで隠し続けてきました。
驚くべきことにこのトンネル工事の落札率が47?%という異常な低さとなっており、その背景には海外企業の参入が予想され、競争が激化したことが指摘されています。このような低入札の結果、労働者の賃金にしわ寄せがきていることは想像に難くありませんし、工事の品質にも不安を与えるものです。
この識名トンネル工事は国の9割補助事業であり、虚偽契約等に係る国からの補助金について、その交付取り消しと全額返還を、沖縄県は国から求められていました。
沖縄県議会は、識名トンネル工事の虚偽契約に絡む国への返還金を削除した補正予算修正案を3月7日の本会議で可決し、県が求めた再議でも9日の本会議で再び修正案を可決しました。
事の真相が県民に十分に明らかにされず、抜本的な再発防止策も示されないもとでは、県議会の対応は妥当性を持つものと思われますが、仲井眞知事は拒否権を発動し、5億7886万円を国に返還したのです。
今回の識名トンネル虚偽契約問題に関し、県のズサンな対応を追及するだけでは抜本的な解決を図ることはできません。
もちろんその責任は徹底的に明らかにされなければなりませんが、自治体が行う契約に何らの規制もなく、ただ安ければ良いという契約のあり方を変えていかなければなりません。
また、異常な低入札を引き起こした背景として存在するWTO基準による「海外企業の参入」という問題を見過ごすこともできません。
今回のような県民に大きな負担をかける不祥事をなくすためには、契約を主管部門の独断にゆだねるようなシステムを見直し、沖縄県全庁として公正は入札を行うためには、公契約条例の制定が急がれなければなりません。併せて、最低価格制限制度を検討すべきです。
同時に、海外企業に公契約の市場を明け渡し、今まで以上に過当な競争を強い、地元企業に壊滅的打撃を与えるTPPを許さない世論と運動を強めることが求められています。
世界貿易機関(WTO)の国際入札基準は工事費23億円、コンサルタントなど委託業務は2億3000万円となっています。
識名トンネル工事は49億円と見積もられていたため国債入札の対象となり、外国企業参入の危機感から23億円という異常な低入札につながりました。
TPPに参加すると工事費6億6500万円、コンサルタント業務は750万円となり、外国企業が参入しやすくなり、競争が激化することは明らかです。
中小企業にも仕事が回るようにと、革新那覇市制の時代に導入された分離・分割発注という優れた制度も、非関税障壁として攻撃の対象とされる可能性があります。
今回の識名トンネル虚偽契約問題は、多くのことを私たちに教えています。