昨年4月1日の条例施行から1年、ようやく「沖縄県の契約に関する条例基づく取組方針」が策定・公表された。

この取り組み方針は「沖縄県契約審議会」の「審議の結果、適当である」とのお墨付きをいただいて策定されたものであるが、一読して失望と落胆を禁じ得ない。

基本理念3 労働環境の整備促進と箇所では、

「(3)適正な賃金水準の確保」として、

「【共通】 年度途中での最低賃金の改定に伴い、発注先が最低賃金法違反を発生させることがないよう配慮を行う。」とある。

そして、【工事請負契約】、【業務委託契約】、【物品購入】のそれぞれに対しての「取組方針」が記載されている。

【工事請負契約】については、下記の取組方針が掲げられている。

17 (再掲)予定価格の設定に当たっては、最新の設計労務単価、資材等の実勢価格を適正・迅速に反映させる。

38 (再掲)入札において、最低制限価格制度を実施する。

39 (再掲)総合評価一般競争入札等において、低入札調査基準価格及び失格基準価格を設定する。

以上の3項目によって「適正な賃金水準の確保」を図るという。

これらの項目が「取組方針」にわざわざ記載されたのは、これまでそれがなされてこなかったということなのか?

まさか、予定価格の設定にあたって、2年も3年も前の古い設計労務単価や資材価格が使用されてきたとは思えない。

最低宣言価格も設定され実施されている。

沖縄県は、これでどうして「適正な賃金水準が確保」されると考えたのだろうか。

これでは、「最低賃金(時間当たり762円)払っていれば文句は言えない」となってしまいかねない。

そもそも、沖縄県公契約条例(正確には「沖縄県の契約に関する条例」)は、「事業者間での価格競争に加え、人件費の高騰等を背景として事業者の収益性の低下など様々な要因が重なった結果、良質な労働力の確保にも影響がではじめるなど、公共サービスの品質確保が懸念されるようになった。」との認識のもとに、「公共サービスや品質確保及び向上に向け、経済性に配慮しながらも、労働環境の整備や社会貢献等、多様な取り組みを積極的に評価することにより、総合的に優れた契約を締結できるよう」にする(「沖縄県の契約に関する条例(仮称)骨子案について」)ものである。

沖縄県労連は、公契約条例とは、①労働者の適正な賃金確保、②事業者の適正な利益確保、により、③良質な公共サービスの確保・提供を実現することが眼目となるものと理解している。

問題は、労働者の適正な賃金とはどの水準か?

ということである。

それは決して、「最低賃金法違反を発生させることがないよう配慮を行う」レベルのものではない。

「17」に挙げられている設計労務単価に見合うものでなければならない。

国土交通省と農林水産省は、両省が所管する直轄・補助事業のうち、平成30年10月に施行中の1件あたり1,000万円以上の工事を選定母集団とし、無作為に抽出した11,041件の工事について、調査対象工事に従事する51職種の建設労働者等について、労働基準法により使用者に調製・保存が義務付けられた賃金台帳から、請負業者等が転記する等して調査票を作成し、会場調査において調査票記載内容を照合・確認することによって、賃金の支払い実態を把握」(2019年2月22日、「平成31年3月から適用する公共工事設計労務単価表」)し、業種別、都道府県別に賃金を示したのが、設計労務単価である。

発表時のプレスリリースには、「新労務単価は好評以降最高に!」との文字が踊っている。

沖縄県労連は、「実際に払ったとされており、払った賃金をもとに予定価格が積算されているにもかかわらず、現場の労働者には、設計労務単価よりかなり低い賃金しか払われていない。」ことが問題であることを指摘し、「せめて設計労務単価の8割が現場の労働者に払われるよう実効ある規制型公契約の制定を求めてきた。

結局、県議会への提出議案は理念型となったが、2018年2月28日の本会議において、赤嶺昇議員の質問に対して、屋比久盛敏商工労働部長は次のように答弁している。


<赤嶺>   私は、規制型がいいとは思っているんですね。今回の提案は理念型ということなんですけれども、基本的に働いている皆さんの所得を上げていくということが何よりも大事だと思いますけれども、やってみて十分な効果がなければ、やっぱり検証して見直していくことも大事だと思いますけれどもいかがですか。

<屋比久> この条例案の中でも、基本理念とはいえ、ある程度各部局が取り組んでいる中身とか、今後改善していくようなものは取り組み方針ということで取りまとめまして、それから契約審議会も設けますので、その中での意見も聞きながら、どういうふうに改善したらいいのかということを回していきたいというふうに考えております。


赤嶺議員が、「働いている皆さんの所得を上げることが何よりも大事」との指摘に、屋比久商工労働部長は「今後改善していくものは取組方針でまとめる」と答弁しているのである。

改善につながる取組方針であることを、祈るような気持ちでその策定を待っていたが、1年間待って「最低賃金違反がおきないように」とは、まったくの期待はずれも甚だしい。

公契約の効果を検証する視点もない。

その程度であれば、最低賃金法が存在するのだから、労働者の賃金引上げに関して言えば、とても実効性のある条例だとは思えない。

伊集労働政策統括監は、規制型での制定を求める沖縄県労連に対して、「最初は理念型で出発し、効果がなければ規制型にしていくこともある」との趣旨を発言している。

公契約条例の効果を調査・検証し、「規制型」への転換も視野に、改善するために努力してぜひ行って欲しいものである。