労働審判事件(訴訟一般もそうですが)は、代理人を付けなければならないというものではありません。

訴訟というのは、争う主体は本人ですから、本人がそれなりの知識と度胸があれば、代理人をつけずに争うことができます。

このような場合、本人訴訟と呼ばれます。

しかし、全くの素人が「準備書面を出してください。」とか、「認否をしなさい。」などと言われても、法定用語そのものの理解がなければ、なかなかうまくいきません。

労働審判は、普通の言葉でやりとりしますから、まだ、ハードルが低いと言えますが、代理人をつけることができれば、代理人をつけるにこしたことはありません。

ところが、請求する金額が少額の場合には、正直なところ、弁護士に代理人を依頼するのも気が引けます。

労働審判法第4条は、代理人に関して「労働審判手続については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ代理人となることができない。ただし、事件を処理するために適当と認めるときは、当事者の権利利益の保護及び労働審判事件の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができる。」と定めています。

基本的に代理人は弁護士でなければなりませんが、但し書きにある「弁護士でない者」も裁判所が認めれば代理人となることができる道が開けています。

この点について「労働審判制度ー基本趣旨と法令解説」(菅野和夫ほか4氏の共著)によれば、労働審判手続きは、「訴訟手続ほど厳格なものではなく、当事者に利用しやすいものとすべき必要がある。」が、「代理人の活動のあり方が当事者の権利利益の保護や手続きの進行に大きく影響をおよぼすおそれ」があるので、適切な者が代理人となるよう配慮する必要があると考えれれる。」とされている。

問題となるのは、「適切な者」とは誰かという事になるのですが、申立人が労働組合の組合員である場合には、申立人が所属する労働組合の役員と理解するのが妥当だと考えられます。

「適切な者」として、代理人の許可を申し立てるには、労働審判規則第5条によらなければなりません。

労働審判規則第5条によれば、代理人となるべき者の氏名、住所、職業及び本人との関係、当該申立の理由を記載した書面で行い、本人と代理人となるべき者との関係を証する文書を添付して、裁判所に提出しなければなりません。

当然ですが、代理人許可申立は申立人の名前で行うことになります。また、申立書に500円の収入印紙を貼付することが必要です。

とは言え、裁判所が労働組合役員を代理人として認めることは殆ど無いことで、これを認めさせる運動が必要でしょう。

このままでは、第4条但し書きは死文化してしまいます。