数え切れないほど解雇事件に関わってきましたが、「犯罪者に仕立て上げての解雇」は5本の指でも余るほどしかありません。はっきり言えば現在進行中の案件を含めて3件です。

飲み屋で会社や上司の悪口を言った。

8年前に勤務時間中に新聞を読んでいた。

等々、埒もない理由で解雇されたような案件もありましたが、刑法上の刑罰が課される犯罪者に仕立て上げられての解雇はめったにありません。

売上金の横領理由での解雇

80年代、米軍基地内の理髪店で働いていた5人の労働者が、閉店間際の時間に踏み込んできた米憲兵隊に「売上金横領」の罪を着せられ、パス(基地への通行証)を取り上げられました。

パスがないと基地に入れず、当然仕事をすることもできません。

経営者も、「就労できない」ことを理由に解雇しました。

憲兵隊が前々から“おとり捜査”を行っていたことは事件後に分かったことですが、横領の理由は次のような事でした。

「午後6時が閉店時間なので、5時半くらいでレジを閉めている。レジを閉めた5時半以降に受け取った料金は労働者が横領している」

労働者は、「確かに5時半頃にレジを閉めていることは事実であるが、閉店間際になるとお客も少ない。お客の付いていない従業員が店内の掃除と売上集計をし、6時には従業員全員が終業できるように、閉店時間を待たずに閉めていた。レジを閉めた後に受け取った料金は翌日の売上に計上しており、横領はしていない」と申し開きをしたのですが、聞き入れられることはありませんでした。

経営者も、労働者の肩を持って米軍に楯突くことができず、むしろ米軍の言い分を絶対のものと受け止めており、解雇の機会を狙っているような状態でした。

結局この事件は最高裁まで争いましたが、敗訴となりました。

労働組合は出勤日と年休取得日、売上計算表から、年休を取得して仕事をしていない日にも多少の売上が計上されていることを突き止め、労働者の主張が正しいことを明らかにしてきました。

地裁から最高裁まで「労働者が横領したという証拠はない。しかし、基地司令官には広範な裁量が認められており、日本の司法は及ばない」との判決です。

“米軍に関しては不可侵”とする酷い判決により裁判で勝つことはできませんでしたが、労働者が「泥棒の汚名は晴らすことができた」ことは救いでした。

バス運賃を横領しようとしたとの理由で解雇

バス運転手が、「運賃箱に運賃を入れさせず、お客からの運賃を帽子で受け取り、お札を太ももの下に挟み込んでいたのは、横領しようとしていた」として解雇された事件です。

労働者は、「両替機が故障しており、お札を入れてもコインがでない。お釣りの必要なお客に対応するため帽子で運賃を受け取り、お札は風に飛ばされないよう太ももの下に挟んでいた」と主張し、会社は「両替機は最新式の両替機で故障することはあり得ない」と主張しました。

この事件は、会社の言い分によれば「降車したお客から、運転手が運賃を帽子で受け取っている」との通報が会社にあったとして、途中のバス停で会社の管理職がバスに乗り込んで現場を押さえ、その場で警察にも通報した事件でした。

運転手が警察に連行されていますので、バスは終点となる営業所から管理職がやってきて、営業所まで移動させています。乗客は他のバスに乗り換えさせています。

この事件のポイントは“両替機が故障していたかどうか”でした。

これを立証するのはかなり難しいことでした。

ネット接続で両替機の異常が検知できることが可能であれば、すぐに判明したかも知れませんが、当時はそんな時代ではありません(今でもどうなっているかは分かりませんが・・)。

八方塞がりかと思っていたところに、職場の組合員が朗報をもたらしてくれました。

バスを移動させた管理職との何気ない話のなかで、その管理職が事件のことに触れ「あの時エラーランプが点いていたんだよな」とポロッと口にしたというのです。

シメた!

その組合員に、「何気ない世間話のような口調でエラーランプがついていたことを引き出せ。それをテープレコーダーに録音することができれば突破口を開くことができる」と指示しました。

組合員は、重大なミッションをやり遂げてくれました。

この事件は高裁まで争うことになりましたが、結果は、労働者の主張が認められ、会社は上告を断念、確定判決をうけて組合と会社の交渉のなかで職場復帰を果たすことができました。

現在の案件も泥棒に仕立て上げての解雇

現在、進行中の案件も「○○を盗んだ」との理由で解雇された案件です。

団交のなかで会社が証拠として挙げた点を一つひとつその信ぴょう性について確認しているところですので、詳細に書くことはできませんが、かなりの矛盾点が存在します。

「盗んだことを認めた録音データがある」と団交では言っていたのに、実際はなかったこともその一つ。

本当に窃盗を働いているのであれば、態様、継続性、被害額等々を勘案して、解雇されて仕方がないと考えられるケースもあるでしょうが、まともな証拠も提出できず、矛盾の多い言い分だけで労働者を解雇するなど許せないことです。

番外編 死亡事故で解雇の淵から大逆転

バス運転手が死亡事故をおこしてしまい、解雇通告を受けましたが、解雇を撤回させ職場復帰を果たした案件です。

その運転手は11月のある日、那覇市から北部行きの路線に乗車し、浦添市の停留所で乗客の乗降を終え、発車しようとして左後輪に異常を感じて確認したところ、人を轢いていて、その方は病院に搬送されたものの死亡しました。

直ちに免許取り消し

会社は形だけの事情聴取を行っただけで解雇を通告

私たちは考えました。

運転中の左折で人を巻き込む死亡事故は往々にして起きているが、止まっていたバスが発車しようとした時点で人を轢くことが、果たしてあるのだろうか?

警察の事故処理記録に、目撃者の証言として「自分で潜り込んでいったように見えた」と記載されているのを手がかりに、被害者の方の家族にお会いして事情をお伺いした所、「被害者は病気のことで悩んでいた」との証言を得ることができました。

そこで警察に掛け合い、「事故は自殺の可能性が高い、事故が起きた停留所は明るい場所ではなく、事故が起きた時間はバックミラーで確認できるような明るさではなかった。免許の取り消しは重すぎる」と訴えました。

警察は「筆記試験を受けて80点以上であれば、90日の免許停止とする」措置をとってくれました。

無事に合格ラインをクリアしましたが、解雇撤回は会社と交渉しなければいけません。

会社の就業規則では、「3か月以上の免停で解雇」となっています。

3か月と90日という点では、暦に助けられました。

28日の2月を含むと1から3月で90日、2月から4月で89日ですからアウトです。

11月の事故ですから、11月から1月の3か月では92日です。

「免停90日は、3か月(92日)未満の日数であり、解雇要件にはあたらない」ことを会社に認めさせ、免停期限があけた時点での解雇撤回・乗務再開となりました。

どんなに困難な事案であっても、当事者が「無実」を訴え、仲間も「無実」を確信し、皆で知恵と行動を寄せ合えば、希望が生まれます。

ありもしない犯罪をデッチ上げられて解雇や不利益な取り扱いを受けている方がおられましたら、全労連のフリーダイヤル 0120-378-060 にお気軽にご連絡ください。お近くの全労連加盟組合につながります。

きっと、あなたのお力になってくれるでしょう。