経済がうまく回っている時には、それほど矛盾と感じられなかったことが、コロナ禍で労働者の生活に直結する矛盾として認識されるようになっている。

シフト制という働き方(働かされ方)もその一つだ。

コロナで仕事がなくなり、休業手当が支給されず、個人申請が可能な休業支援金・給付金を申請しようすると、「我が社はシフト制だから、仕事がなくてシフトが組めないだけで、休業を命じたわけではない」と確認書への記載を拒否する経営者が多いことは、マスコミでも報道されている。

この点に関しては、全労連(全国労働組合総連合)をはじめ、全国の仲間ががんばって「シフト制であっても、仕事をしていない事実が確認されれば、労働局が職権で判断する」と制度運用の改善を行わせてきた。

シフト制があたかも魔法の杖のように、法律を守らなくても良い免罪符となっていないだろうか?

実際にあった雇用契約書の例

うまんちゅユニオンが入手した雇用契約書(労働条件明示書)では、次のようなようなものがある。ここでは、労働時間と休日に限って記載する。

1 労働時間の記載がない。つまり、一日何時間働くか、何時から何時まで働くかの記載がない。

2 休日については、「シフトが入らない日を休日とする。」と記載されている。

この点について、団体交渉で次のようなよりとりがなされた。

<組合> この契約書によれば、今日は1時間働かせ、明日は10時間働くことも可能、また、仕事がないという理由で1か月や2か月全くシフトが入らなければ、すべて休日となるというのが会社の認識か?

<会社> そうなります。

<組合> そんな馬鹿な話があるか!

労働基準法と労働契約法に照らして、シフト制について考えてみたい

労働基準法第15条は労働条件の明示について定めており、条文は下記のとおりである。

(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

本条では、賃金及び労働時間に関する事項、その他の厚生労働省令で定める事項を、厚生労働省令で定める方法によって明示しなければならないとありますが、具体的にはよく分からない。

そこで厚生労働省令(労働基準法施行規則)を見てみよう。

(労働条件)
第5条 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。(以下、略)
一 労働契約の期限に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切及び支払いの時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項
四の二 退職手当(略)
② 略
③ 法第15条第1項後段の規定により厚生労働省令で定める事項は、第1項第1号から第4号まで掲げる事項(昇給に関する事項を除く)とする。
④ 法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をするものを特定して情報伝達するために用いられる電気通信の送信の方法

引用が長くなったが、要するに一から四までの事項のうち、昇給に関する事項を除いて、書面で明示しなさいということである。ファクシミリや印刷可能なメールも有効という内容である。

就業時間に関して

これに関しては第二号により「始業及び終業の時刻」を明示して、一日に何時間働くのかを明らかにしなければならないのだから、始業の時間、終業の時間がなく、従って何時間働くのかも分からず、「シフト表による」だけでは、これを満たしているとは言えない。

例えシフト表によるとしても、例えばA勤務は○○時から△△時まで、B勤務は□□時から◇◇までと定め、○日はA勤務、□日はB勤務というように、特定すべきだと考える。

二号には、「労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項」がある。これは、例えば工場などで二交代、三交代で労働させる場合の一斉交代を念頭に置いた規定ではあるが、一人ひとりの労働者を時間差で働かせる場合でも、準用は可能ではないだろうか。

休日に関して

休日に関して、労基法は第35条で「毎週少なくとも1回の休日」、「4週間を通じ4日以上の休日」を与えなければならないと決めているだけである。従って、休日が週2日でも3日でも、それだけで違法とは言えないことになる。また、週1回の休日(法定休日)を何曜日にするかも決めていないので、必ずしも日曜日と決まっている訳でもない。行政解釈では「休日は一斉に与えなくてもよく曜日を特定しなくてもよい」が、労働者保護の観点からすれば、休日の特定が望ましいことはいうまでもないとされている。

「休日は一斉に与えなくても良い」は理解できる。年中無休で営業している事業所もあるから、一斉に休む訳にはいかないので、労働者毎に休日は異なっても矛盾はない。

ところが「曜日を特定しなくても良い」は、矛盾を生じる。

この点に関して、厚生労働省労働基準局編による労働基準法(上)では、「休日については、単に『休日』とあるのみであることを勘案すれば、第89条の規定をもって、休日は特定すべきであるとするには根拠薄弱と言わなければならず、第35条の文脈からは、休日特定の解釈は生まれない」とする。

そうなると、例えば月曜日から金曜日まで一日8時間、週40時間働き、土曜日と日曜日を休日とする週休二日制の場合、ある週の土曜日に労働させて日曜日が法定休日、またある週は日曜日に労働させて土曜日が法定休日としても構わないということななる。

法定休日の労働については、3割5分以上の割増賃金を払わなければならない(第37条)のに、厚生労働省の解釈だと、3割5分以上の割増賃金を払わなければならない日は存在しなくても良いことになる。

週のうち6日で40時間(労働時間の特例が適用される事業所は44時間)を働き、休日は週1日となる労働者のみ第37条の対象となる。

週休2日制が社会の趨勢となり、「希望により週休3日制」も話題となっているご時世に、こんな解釈こそ時代から取り残されていると思わざるを得ない。

話がわき道にそれてしまったが、「シフトが入らない日が休日」がどうなのかということに戻ろう。

そもそも労基法第15条は「就業形態の多様化に伴い、労働条件が不明確なことによる紛争が増大するおそれがあることから、このような紛争の未然防止」を目的とする条項である。この趣旨からすれば、1か月でも2か月でもシフトが入らなければ休日などというのは、「労働条件が不明確」な究極形であって、決して許されてはならないと考えるものである。

労働契約法第4条との関係

労働契約法第4条は、使用者と労働者の間における個別労使紛争を防止する観点から、次のように定めている。

(労働契約の内容の理解の促進)
第4条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
(2項は略)

事例に上げている会社は、この労働契約法が求める点について一切していない。

仮に、「一日に何時間働けるか分からないですよ、何か月にわたろうが会社がシフトをいれなければ休日になりますよ」と説明しようものなら、労働者は恐ろしくて誰一人こんな会社で働こうとは思わないだろう。

実際、「そんなことを雇うときに言っていたら、就職などしなかった」と怒りの声があふれていた。

シフト制という制度は、決して魔法の杖ではない。

労働者のたたかいを強めて、経営者が理不尽に振るう「魔法の杖」を無力化しよう。

シフト制を口実に、理不尽な扱いを受けている方がおられましたら、全労連のフリーダイヤル0120ー378ー060までお気軽にご連絡ください。