このほど、ある学習塾での紛争が解決しました。

いくつか、論点はありましたが、休業手当もその一つで、事業主の指示による休みがありましたが、それをどう捉えるかです。

事業主側は、当初「休講にしなければならない理由があって、先生方は全員授業をしていない。それは、会社が指定する休日に当たるので、休業手当を支払わなくても良いのではないか」と主張していました。

うまんちゅユニオンとしては、「会社が指定した休日とは、あらかじめ就業規則等で指定しておくことが必要だ。出勤義務を課していた日に、理由があるからと休業させても、それが“会社指定の休日”に該当することになれば、際限なく休業させることが可能となり、法律が意味をなさなくなる」として、民法536条2項前段による全額支払いを求めるとともに、労働基準法第26条の休業手当との関係についても説明を行ってきました。

その結果、事業主側もユニオンの主張を受け入れ、解決に漕ぎ着けたものです。
以下は民法と労基法の規定とその関係です。

民法536条2項前段は下記のとおりです。

(債務者の危険負担等)
第536条第一項(略)
2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなった時は、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。・・以下略」

何を言っているのか、さっぱり分からない条文ですが、債権者=使用者、債務=労働、債務者=労働者、反対給付=賃金の支払い、と言葉を置き換えれば理解できます。

ちなみに、「債務者は、反対給付の履行を拒むことができない。」は、平成32年(2020年)4月1日からの表現で、それまでは「債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」となっていました。

対して、労働基準法第26条は下記のようになっています。

(休業手当)
第26条 使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

民法では全額、労働基準法では「平均賃金の百分の六十」が下限となっています。

平均賃金の6割は、大体において通常の賃金の4割台の金額ですから、民法を根拠に全額を請求するのが断然お得なのですが、この民法の条文はあまり知られていなくて、労働者が休業手当を請求する場合でも「労働基準法第26条による休業手当を支払え」と、労働基準法を根拠にすることが多いようです。

民法と労働基準法との関係について、昭和23年12月15日付基発502号では次のように記しています。
基発とは、厚生労働省(労働省)の労働基準局長名で発する通達です。漢字を逆にして発基になると、労働基準関係の事務次官通達となります。

本条は民法の一般原則が労働者の最低生活保障について不十分である事実に鑑み、強行法規で平均賃金の百分の六十までを保障せんとする趣旨の規定であって、民法第536条第2項の規定を排除するものではないから、民法の規定に比して不利ではない。

要するに、民法の規定は強行法規でないため、使用者が支払いを拒んだ場合、労働者は裁判に訴えることになりますが、それでは労働者の負担が大きく、最低生活を保障することにならないので、最低生活を保障するために労働基準法は罰則(30万円以下の罰金)をもって使用者に休業手当の支払いをさせるんですよ、と言っているのです。

使用者が休業に対する賃金を支払わない場合、労働基準法で平均賃金の6割の休業手当を支払わせ、差額については裁判でという考えです。

仮に、1日の賃金が1万円、所定就労日数が月20日の労働者が、1か月丸々休業させられても請求額は20万円です。20万円のために本裁判を起こすのは困難ですし、調停、少額訴訟、労働審判などの手続をとるとしても、労働者の負担が多きいのは目に見えています。

コロナ禍において、「平均賃金の6割(通常の賃金の概ね4割台)ではとても生活できない」という声が強まっています。通常の賃金の8割くらいに労基法を変えてもらいたいものです。

休業手当の不払い等についてのご相談は、全労連のフリーダイヤル0120ー378ー060まで、お気軽にご連絡ください。