沖縄県労連は、7月27日、25歳の単身者が那覇市で「普通の暮らしをするためには月24万円が必要」との最低生計費試算を発表しました。この試算は、中澤秀一静岡大学短期大学部准教授の監修によるものです。

調査の趣旨は、「8時間働いて普通の暮らしをするには幾らお金が必要か」を示そうとするものです。従って、生活実態を表す家計調査とは異なる数値となります。

沖縄県労連が加盟する全労連は、現行最低賃金額が憲法25条「健康で文化的な最低限の生活」を営むことができる水準になっているのか、全国をA~Dの4ランクに分け、格差をつけること(全国で最も最賃額の高いAランクの東京は1013円、最も低いDランクの沖縄は790円。その差は223円)に合理性があるのかを明らかにするために、生計費試算調査を行ってきました。沖縄は21番目となります。

沖縄の最低賃金は時間額790円です。この金額で月173.8時間フルに働いても月の収入は約13万7000円です。これから、健康保険料、年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税の約2万6000円を差し引けば、残るのは約11万1000円です。

11万1000円で30日暮らすには一日3700円で、家賃や食費、スマホ代などすべて賄わなければなりません。

数年前、全労連九州ブロックとして、厚労省交渉を行った際、「貴方は最低賃金で暮らしていけると思いますか?」との問いに、若い担当官は「私にはできません」と答えました。その後、2019年3月には当時の根本厚労相も「標準生計費を満たしているかどうかで言えば、ちょっと厳しいと思う」と国会で答弁しています。

日本の最低賃金は、政府お墨付きの低額最賃となっていますので、最低賃金だけで生活しようとすれば、食費をはじめあらゆる出費を切り詰めて生活しなければなりません。

ちなみに、月173.8時間働く労働者は、週労働40時間制による週休2日だけで、盆も正月も、国民の祝日も、ゴールデンウィークやシルバーウィークも休まずに働く労働者の月平均労働時間です。こうした日が休日となる労働者は、さらに収入は減少します。

昨年のゴールデンウィークが10連休となった時に、「休みが多くなると給料が減って困る」との声が上がりました。

沖縄県労連が「普通のくらし」と言う時、残業せずに8時間働き、7割以上の人が持っている持ち物は生活に必要な物として勘定し、成人に必要なカロリーがとれる食事をとり、せめて2か月に一度はドライブなど日帰り旅行ができ、年に一度は県外に旅行(県外出身者は帰省)し、等々・・

これらの点について、生活実態調査、持ち物調査、価格調査、そして学術的な研究の成果も踏まえて導き出した額が「最低生計費試算調査」です。

生活に必要な物を特定し、それらをどのような店で購入するか尋ね、それらの最低価格帯を実際に調べ(電化製品なら量販店で)、車の消耗品については2か所の修理工場で調べて低い方の価格を採用するなどして、積み上げた数字が最低生計費試算の金額です。

このような調査方法はマーケット・バスケット方式と呼ばれます。

この調査方法は、岩田正美日本女子大学教授(2007年当時)の著書「現代の貧困」によれば、生活扶助費の算定方式として戦後の一時期(1948年から数年間)採用されていたが、煩雑すぎることから変遷をくりかえし、現在は「一般世帯の消費水準の6割に固定する水準均衡方式」となっている。

このように、マーケット・バスケット方式は、煩雑ではあるが、最も科学的な調査方式と言えるのではないだろうか。

それでも、これまで先行して調査結果を発表した都道府県の結果に対して、「食費4万円は高い」など、様々な反応があることは承知しています。

沖縄県労連の試算では、食費については男性4万1266円、女性3万3200円と試算しています。これは昼食をとるのに、男性は弁当・社食などの外食が多く、女性は弁当持参が多いため、女性の金額が低くなっています。それでも1食あたり男性459円、女性369円です。

この金額で、25歳男性に必要な一日あたり2650キロカロリー、女性1950キロカロリーを満たす食事をとることになります。

この金額を高いと捉えるか、妥当と捉えるか、実際の生活と引き比べての意見は様々あるとは思いますが、そのような様々な意見も含めて、「健康で文化的な最低限の生活」とはどのような生活か、それを実現するために現在の最低賃金が妥当か否か、格差を温存する最低賃金のランク制が必要かどうか、考える一助となれば幸いです。

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