ある警備会社に対して、不払いとなっている残業代を請求する団体交渉で、「わが社では就業規則で1か月単位の変形労働制を定めているので、未払いはない」と言い出してきました。

ところがこの会社、「就業規則は企業秘密」として労働者に周知していません。

労働基準法第106条は就業規則を「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付け、書面を交付すること」等で労働者に周知することを、使用者に義務付けています。

周知していない会社の対応は、この条文に違反していることは明らかですが、周知していない就業規則が有効か否かの論点が生じます。

この点について、平成15年「フジ興産事件」で最高裁第2小法廷は「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手段が採られていることを要する」との判決を出しています。

件の警備会社は「就業規則は企業秘密」として周知する手段を講じていないのですから、拘束力を有しないということになります。

注意すべきは、使用者は、事業場に掲示等の手段によって周知する手段を講じていればよいのであって、それを労働者が見なかったとしても、就業規則の拘束力が否定されるものではないということです。就業規則はしっかり読んでおく必要があります。

就業規則について、労基法第89条は、労働基準監督署への届け出を義務付けています。ここから、労基署に届け出ていない就業規則は有効か無効かとの論点が生じます。

この点について、厚生労働省は「届出は効力発生要件ではない」との見解であり、昭和41年の「コクヨ事件」大阪高裁判決も「届出手続きの履践は作成または変更にかかる就業規則の効力発生要件をなすものではなく、使用者においてその事業場の多数の労働者に共通な就業に関する規則を定めこれを就業規則として表示し従業員一般をしてその存在および内容を周知せしめ得るに足る相当の方法を講じた時は、その時において就業規則として妥当し関係当事者を一般的に拘束する効力を生ずるものと解せられる」と判示しています。

労基署に届け出ないのは、89条違反としての事実はあっても、周知していれば就業規則としての効力は有効とされることになります。

ただし、「労基署に届出ている」という事実だけをもって、「内容的にも問題ない」とは言えません。

労基署は、手続きとして「就業規則の届け出を受けた」だけであり、法令や労働協約に抵触する就業規則については、第92条2項により、就業規則の変更を命じることができます。

因みに、労働者に周知しなければならないのは就業規則だけでなく、労働基準法、労働基準法に基づく命令の要旨、36協定などの諸協定などがあります。就業規則が労働基準法に照らして合致しているかどうかは大事多ことであり、労働基準法などの周知も要求することが必要です。