新型コロナウイルスの感染拡大で、内定取り消しが出始めています。

大きな希望を抱いて社会に踏み出そうとした学卒の皆さんのショックは察するに余りあります。

「まだ正式に採用されていないので仕方がないのかな」と思われる方がいるかも知れませんが、そうではありません。

そこで、改めて採用内定取り消しに関する裁判例を紹介します。

採用内定取り消しの効力を争った代表的な裁判に大日本印刷事件があります。

この事件は、大日本印刷(Y)が採用を内定したXを理由も示さずに採用内定を取り消したため、Xが①従業員としての地位の確認、②入社予定日からの賃金支払い、③慰謝料の支払いを求めたものです。

裁判で、大日本印刷は、内定取り消しの理由として「Xはグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかもしれないので採用内定としておいたところ、そのような材料は出なかった」と主張した。

最高裁の判決(1954年7月20日最高裁第2小法廷判決)は、

1 Yからの募集に対しXが応募したのは労働契約の申し込みであり、Yからの採用内定通知は、XとYとの間に本件誓約書記載の5項目の採用内定取り消し事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのが相当

2 採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に異ならない。

3 採用内定期間中の採用内定期間中の留保解約権の行使についても、試用契約における留保解約権の行使の場合と同様に解すべきであり、したがって採用内定の取り消し事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解雇権留保の趣旨目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当であるから、

⑴従業員としての地位確認と、②入社日以降の賃金支払いを認め、③の慰謝料の支払いについては認めませんでした。

これは、私が考えるに、従業員の地位とバックペイを認めるのだから、慰謝料までは認める必要がないと考えたのだろう。地位確認を求めなければ慰謝料の支払いを命じる可能性は十分あると思われます。

日本の法律は慰謝料請求をあまり重視しない傾向があります。

数年前にアメリカでのセクハラ訴訟で日本円にして20数億円の慰謝料支払いを命じた判決がありました。このような慰謝料を命じるのは懲罰的慰謝料の考え方があるからだと言われています。

この判決に出てくる「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とする考え方を「解雇権濫用法理」と呼んでいます。

その後、労働基準法第18条の2に解雇権濫用法理が書き込まれ、2007年の労働契約法の制定で、その第16条として労基法から移されて今日に至っています。

労契法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用としたものとして無効とする。」と定めています。

企業が採用を内定した時点で労働契約は成立しているのですから、これを取り消すには労契法第16条を満たす必要があるのです。

通常の契約とことなるのは、始期付契約(○月○日採用)であること、解約権留保付契約(採用条件を満たさない場合、例えば学校卒業を条件としたが卒業できなかった時は取り消すことができる等)であることです。

加藤厚労相も「内定取り消しは通常の解雇と一緒」と述べているのは当然であり、たたかえば従業員としての地位を認めさせる可能性があります。

内定取り消しでお悩みの方がいらっしゃいましたら、全労連の労働相談フリーダイヤル 0120-378-060 までお気軽にご連絡ください。どこから電話してもお近くの全労連の組合につながります。