労働者の紛争も裁判などに持ち込まれると、ほとんどの会社は就業規則を証拠として提出してきます。
就業規則第△△条に違反しているので、第××条により処分したという主張を裏付けるつもりのようです。
ところが、この就業規則が正当な手続きを経て制定・変更され、周知徹底されているのであれば、まだしも、労働者にこっそり変更して、労働者が知らない間に労働基準監督署に届出、周知もされていない「就業規則」なるものを平気で出してくる会社もあります。
一体こんな代物に効力があるのでしょうか?
労働基準法第90条は、就業規則の作成と変更について、過半数労働組合がない事業場においては、過半数代表者の意見を記した書面を添付して、労働基準監督署に届け出ること(第89条)を義務づけています。
問題は過半数代表者が意見を述べる場合です。
労働基準法施行規則第6条の2は、過半数代表者について、①管理監督者では過半数代表にはなれない、②法に規定する協定等をする者を明らかにして実施される投票、挙手等の手続きによって選出された者、であることを定めています。
この②の点について、菅野和夫氏は「当該事業場の労働者全員が参加しうる投票又は挙手等の方法」(労働法第8版)と指摘しています。
投票又は挙手等の方法によるにしても、その前提となるのは、賛成が過半数なので、反対が過半数なのか、中間的な意見が過半数なのかです。
過半数代表者を選ぶ選挙は人気投票とは違いますから、過半数の労働者の意見を述べることが求められるのです。
労働者が知らない間に就業規則が変えられているということは、過半数代表を選出する法定の手続きが踏まえられておらず、会社による指名によって過半数代表者なる者が仕立て上げられていると言わなければなりません。
周知されない就業規則は無効となりますが、過半数代表者の選出に違法性がある就業規則もただちに無効とするよう、労働基準監督署は指導すべきです。
沖縄県労連には、県外からもネットを通じて相談メールが寄せられます。
そのうちの一通に、「就業規則を見たことも聞いたこともないのに、就業規則を根拠に処分された。『誰も過半数代表者を選んだ覚えはないのにおかしいのでは』と労働基準監督署に相談したら、対応した監督官に『労基署に届け出されているから就業規則は有効』と言われた」とのメールがありました。
このような対応は、横浜労働基準監督署がグッドイィルに対して過半数代表者の指名は違法であり、その就業規則は無効と指導している事例から見ても、誤りであることは明らかです。
全国の労働基準監督署が横浜労働基準監督署を見習い、ただちに是正指導を行えば、少しは過半数代表者の選出が法による手続きによりなされるようになるでしょう。